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 連載

相互邂逅




 僕はその K 社では、結局、六ヶ月働いただけだった。
 その半年間は、僕の人生で、もっともネガティブで、もっとも鬱屈とした日々であった。予感通りの、牢獄生活であった。
 僕がその半年で味わった自分の未熟さや無知は苦くはあったが敵ではなかった。ただ、自分が誰かの手足にされているのみだという強い思いが、そこでの努力を無意味にさせ、そこに居続けることをいたたまれなくさせていた。

 その当時をカバーする 「No 6」 のノートに、小さな紙片がはさまれ、そこに小さな文字で、以下のような記述が読める。おそらく、派遣された地方の建設現場での仕事のかたわら、書き残したものであろう。
 さらに、こんな記入もある。
 このノートの最初のページには、日付はないが、そのノートへの最初の記入が詩篇の形をもってこうしるされている。
  題名と日付をつけた記述もある。

 僕がその会社を辞めたのは、この十月の末であった。
 一緒に卒業した仲間たちのなかで、最も早い離脱であり、落伍であった。
 かくして僕の青年期は終わり、長く地をはう並み人の時代に入ってゆく。つまり、両親が僕に相続してくれた遺産といえるものは最高学位までの教育であったのだが、そんな特権をこうして早くも食いつぶし、裸で社会を渡ってゆかねばならなくなった。 「親の心、子知らず」 そのものであった。

 つづく
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