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    修行第二十五風景


 ジャカランダの花は盛りを過ぎ、この頃は、散った花が路上や庭面を覆い、紫色のじゅうたんを敷きつめたようです。
 自転車のメーターは、昨日、700キロを超え、10707km を表示しています。

 これは二週間ほど前のことでしたが、暑くなりはじめた午後、店に向かってべダルをこいでいる時でした。片道8キロの道中の、三分の一ほどを行ったところだったでしょうか、にわかに後輪が左右に振れはじめ、パンクの発生を知らせていました。
 やれやれ、まだ残す道のりは5キロはあり、これまでに起こったバンクの中では最悪のケースです。そこでの、その後の選択は三通りで、バス通りに出てバスに乗るか、タクシーをつかまえるか、それとも、残り全部を歩き通すか、のいずれかです。
 前者の二通りを採るにしても、当面は自転車を押して表通りまでは歩かねばなりません。また、バスにしても、タクシーにしても、すぐに乗れる保証もありません。
 そういう次第で、ともかくも歩いているうちに、交通機関に頼るのも面倒くさくなり、偶然、ちょっと早めに家を出ていたこともあって、少々の遅刻で店には着きそうな見通しです。
 そうして、残りの全道のりを、汗を流しつつ早足で最短距離を歩きながら、ある、面白い体験をしていました。
 それは、 「自尊自頼」 の心境とでも呼べるような、こうした突発的なことが発生した場合でも、自分の、ことに体力に頼ってそれを切りぬけてゆけるという、こちらで言う “CAN DO” 感覚でした。場面は大いに異なりますが、昔、山を単独行で踏破し抜いた感覚にも似ています。
 
 結局、歩いた時間は40分ほどで、店には約10分、遅れただけで到着することができました。
 確かに大汗はかきその分の疲労感はありましたが、その日の仕事に支障をおよぼすほどのものでもなく、おまけに、遅れを取り戻そうとさらに馬力をかけて仕込みをするなど、余力のあることも発見できました。
 年齢を加えて、とかくいろいろなことを断念したり、誤魔化したりすることになりがちなこの頃なのですが、まだまだやれるじゃないかという、自信めいた気持ちもおこってきた体験でありました。
 これから、世界はそうとう大変な時代に入って行きそうです。ひょっとすると、私の身辺にも何かの余波がおよんでくるかも知れません。そうした危機状況の場合、何といっても、頼りとなるのは体力です。
 そうした意味でも、自分の体はそんなに衰えてはいないじゃないかと、少々、安堵できる発見でもありました。
 

 (2008年11月31日)

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