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 第二期・両生学講座 第11回


「両生空間」のメタ化


 読者もよくご存じのように、 「両生空間」 の両生とは、生物学でいう両生類の両生を語源としており、水陸に住める生物ということから、二つの世界に住むという私自身の経験を象徴する言葉として使ってきています。つまり、そこには、地理的あるいは物理的な次元での二つの世界ということがその発想の根源にあります。
 そうした 「両生空間」 の意味が、前回より始めたその英語版の発行をきっかけとして、早くも、微妙に変化を始めてきています。
 と言うのは、これまでの 「両生」 の発想は、自分が実際に地理的な移動を行うことによる複眼視野の体験に根差していたのですが、それが、英語版の発行に携わり始めることにより、地理的な移動ではない、頭の中における、言葉上の二つの世界を行ったり来たりすることにより、頭脳上の複眼視野、といったようなものができ始めているように感じられるのです。といっても、英語版との取り組みもまだ始めたばかりであり、そのとばくちにあるに過ぎないのですが。
 そこでこの 「頭脳上」 ということを、形而上あるいはメタフィジカルと言い換えて、こうした変化を 《 「両生空間」 のメタ化》 と呼びたいと思っています。
 
 そこでですが、この 「両生空間」 のメタ化》 とはどういうことか、と言いますと、これまで、私が地理的な移動を繰り返すことにより、自分の物理的世界が広がる体験をしてきたのですが、それは、自分を世界地図に――少なくともその一部分に――合わせて行くような、自分自身の身体的な世界地図化ともなぞらえうるかと思います。
 それに対し、この 「両生空間」 のメタ化》 とは、言語上の移動を繰り返すことにより、
自分の頭の中に、自分なりの世界地図が形成されてゆくような過程と言えるかと思います。
 おそらく、この言葉上の格闘を繰り返している時、言語脳は、そうとう活発に働いているはずで、しかもその働きとは、これまでの、日本語のみの単体的働きから、日英両言語を股に掛けた、複合的な働きに変わって行っているに違いありません。言い換えれば、脳の中の言語中枢が、日本語だけのものから、日英の二本立てのものへと、臓器的に変化しているのではないかと推察されます。
 そこで、さらにおそらく、こうした脳内の臓器的変化が進むことにより、脳の働きとして、そうした複合的な働きも拡大するはずで、その結果、ものの見方、考え方にも、この臓器複合的な拡大が反映してくるのではないかと思うのです。
 ただ、これはまだ推察の段階で、自分でその拡大を体験して確認しているというわけではないのですが、ただ、こうした推察が可能な程度には、ある種の気配を感じはじめているのは確かです。
 視覚的に言えば、私の当初の 「リタイアメント・オーストラリア」 のサイトに 「両生空間」 が出現してサイトの世界が二本立て、つまり 《両生化》 したように、そこにさらに 「Amphibious Space」 が出現してサイトが三本立て、つまり立体化し、これが 《メタ化》 につながるのではないか、と思うのです。

 とは言うものの、英語版の出版とは、実のところ、まことにも煩雑で時間を要し、みじめっぽい体験の連続です。文章を書くとは、まず自分が著者となって何かを書き、次に自分がその文章の最初の読者となってその文章を読み、この二つの作業の間を往復しながら、ひとつの文章を練り上げてゆくことです。それが英語の場合、その最初の読者たるものが、その著者に劣らず、英語に未熟で、それが本来述べたい表現であるのかどうかを判断する、その能力がおぼつかないわけです。
 加えて、今の英語版の記事は、日本語記事の翻訳で、原文の意味するところは充分に承知しているわけであり、自分が英訳したものが原文の持ち味をどれだけ復元しているものか、とてもじゃありませんがそのギャップたるや歴然で、それになんとも愕然とさせらないではいられません。
 これまで私は、自分の英文を公表する際は、誰か英語を母国語とする人の手を借り、その人による編集を経て、そのおぼつかなさをカバーしてきました。しかし、この 「Amphibious Space」 の出版に限っては、そうした編集をしないで、できる限り、自力のみの表現に固執したいと考えています。それというのも、自分の脳の発達があるとするなら、そのみじめさの反作用としてもたらされる結果であると思うからです。
まあ、それくらいの恥をかくことなしに、 《メタ化》 など当然ありえないだろうと思います。

 ともあれ、私にとっては、この 「両生空間」 のメタ化》 とは、当初の 「両生空間」 の発足にも匹敵する重大な進歩で、私にとっての新たな居場所の開拓を意味することになるだろうことは間違いないと思います。
 いずれにせよ、上記のようなアイデアは、まだまだ、とっかかりのものです。今後の磨きあげがさらに必要なはずです。


 (2009年3月24日)


 English Version
 
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