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<連載>  ダブル・フィクションとしての天皇 (第98・最終回)


「日本人であることの不快感」
  と、その解消



 今回をもって、これまで7年と3ヶ月間にわたった、この 「訳読」 が遂に完結します。
 そして同時に、私にとっての、ひとつの長年の疑問も、その問いかけをひとまず終えることができそうです。

 その長年の問いかけとは・・・、究極的には、 「日本人であることの不快感」 であり、
 それを終えることができるとは・・・、自己発展的な、その 「不快感」 の解消です。
 大仰に言えば、私は、昭和21年生の最初の戦後世代として、どうやら、戦前世代と戦後の世代をつないで担いできたらしい荷物を、なんとか、下すべき場を見つけた感があります。

 端的に言うと、 「日本人であることの不快感」 とは、私自身が、かっての戦争での 「残虐な日本人」 の一人であることです。
 そして、その 「解消」 とは、それが、二点における、 “植えつけられ” の産物であった、との気付きです。つまり、私――あるいは日本庶民――の本来の属性ではなかった、ということの発見です。
 そして、その 「二点」 とは・・・、
 第一に、日本人は、敗戦によって、意図的に分断されてきたことです。つまり、支配の普遍原則である divide and rule、すなわち 《分断支配》 です。日本人全体が、軍部を支えて人殺しをし、かつ日本を敗残国に導いた 「悪い」 日本人と、 “平和的だった天皇” と共に軍部に批判的だった 「良い」 日本人、という分断です。もちろん、この分断状況を作為的に作ったのは、戦勝国アメリカの巧みさです。
 第二の 「植えつけられ」 とは、日本人が日本人を支配するために、天皇という権威を、歴史的実態を越えて過剰に 「親」 格化して 「神」 格化し、 《親離れできない日本人》 を、意図的に定着させてきたことです。そしてその自立を欠く 「臣民」 としての日本人による 「大親」 たる天皇への忠誠が美化、国教化されてきたことです。
 私は、この 「親離れの不足」 を、 「天皇離れの不足」 とか、 「王離れ不全」 ( 「置き去りにされた皇国少年たち」 参照) と呼んできました。
 こうした二重に分化した日本があって、それはひいては、 《民主的で合理的で現代的な日本》 と、 《伝統的で文化的で古臭い日本》 といった、しっくりとは落ち着き合えない日本人意識を形成し、逆に、その両方を兼ね備えた、より大きく、包括的で、より生きいきとした日本人自我を作りにくくしてきました。
 そこで、上記の第一と第二の両者合わせて、まさしく、 「ダブル・フィクションとしての天皇」 たる虚構であったわけです。
 したがって、もし、日本人全体が、この 「解消」 によって、その内部の桎梏を克服し、しかも、不必要な社会的内部摩擦から解放されたならば、その全体的一致感がもたらす、社会的高揚感とその総和エネルギーの量は、日本をして目覚ましい飛躍をさせるものではないかと予想されます。それはまさしく、 「大人化した日本」 の誕生です。

 私にとって、この 「解消」 は、本書 『天皇の陰謀』 の読書体験による成果です。それはあくまでも、私の個人的体験にすぎませんが、必ずしも、私の特殊で固有の体験ではないと確信します。少なくとも、私あたりの世代の人にとって、 「日本人であることの不快感」 は、意識の深いところでは、誰にでも共有されているはずです。
 すでに幾度も指摘してきましたように、この本が述べる、日本にも、アメリカにも厳しい、そのバランスのとれた追及力が、上に述べたような、日本を覆う不自然な仕組みに、気付かせてくれました。
 
 著者のバーガミニは、結末の最後のパラグラフにこう述べて本書を結んでいます。
 これが書かれたのは、1970年代の初めにおいてです。にもかかわらず、今日でも通用する、いやむしろ、あたかも今日へこそ向けて述べられているかの結びです。
 私がそうであったように、日本人全体が、 「日本人であることの不快感」 を解消することを可能とする、その方法を、この本は提供しています。
 そういう意味で、この本は、その毒々しい書名にもかかわらず、決して 「ゲテモノ本」 でないばかりか、偏向した本ですらなく、日本人にとっては、必読の 「良書」 とも言えます。

 それではその最終回へご案内いたします。


 追記 その 「解消」 に至るいきさつを、要点を抽出して上記のように述べました。しかし、以上の説明だけでは言葉足らずで、いまひとつ、理解しにくいかと思います。したがって、次回以降、そのいっそう詳しい説明を述べてゆきたいと予定しています。

 (2013年9月6日)


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