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<連載>  ダブル・フィクションとしての天皇 (第60回)


トンネルのこちら側と向こう側


 2012年に入り、この地球は、あたかも 《世界金融戦争》 が勃発したかの様相を見せ、ユーロとドルの攻防が続いています。ドルが勝ってユーロ統一市場の崩壊を見るのか、それとも、ユーロが攻撃に持ちこたえ、ドルに対抗しうる国際通貨としておどり上がるのか、(さらには、両通貨に加わる第三の国際通貨がアジアに発生するのか)、新年早々より、スケールも巨大な歴史的ドラマが演じられています。
 このような、これまでに展開されてきたドル独占市場=アメリカの世界覇権が揺らぎ始めている今日の情況から振り返れば、前回に言った 「ダブル・フィクション」 のうちの、二つ目のフィクション――米国の世界支配を支える陰謀――の視点が一層くっきりと浮かび上がってくる一方、それを反転させ、戦前を見る目も、これまたリフレッシュされた視界となって再登場してきます。
 長いトンネルのこちら側と向こう側であるかの如く、80年を隔てた、1933年の日本の国際連盟脱退も、その二重のフィクションというトンネルに突入直前における、いわば、今日の世界の鏡像として見え始めてきます。
 たとえば、日本が脱退を余儀なくされた同年2月24日の国際連盟の総会で、日本代表の松岡洋右はこう演説しています。
 つまり、英国のスエズ運河支配や米国のパナマ運河支配が世界に通用しているのに、日本の満州支配のどこが悪いのか、という姿勢であったわけです。
 ただ、国際世論つくりという技量では、(当時も今も)、日本はほんのハナタレ小僧で、45加盟国中、タイ(シャム)の棄権を除いて、全会一致で反対されて完璧に孤立します。それもそもそもを言えば、そういう技量とは、 “近代” という欧米優先論理に立ったものでした。
 その孤立無援の日本がその後どういう道をたどり、逆に、その技量をフルに使って世界に君臨してきたのが英米だったというコントラストを、私たちを含め、世界は目撃してきたわけです。
 そうであるならば、その長いトンネルに入ってゆく前である当時の日本に(そして畢竟今日の日本に)、いずれのフィクションにも頼らずに生きてゆけた、第三の選択はなかったのでしょうか。
 あたかも、トンネルの向こう側がトンネルのこちら側を呼び覚ますような視点が、今の私たちに浮上してきます。
 私たちは、 《近代》 というトンネルから抜け出て行かねばならないようです。
 
 ではそのトンネルの向こう側、第16章 (その2) にご案内いたしましょう。

 (2012年1月22日)


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