オーストラリアで働くこととは
オーストラリアをめざす日本人にとって、それが留学でも、ワーキングホリデーでも、現地で働くということが、その計画の不可欠な一部となっていることでしょう。そうした「移民」労働者が、いま、オーストラリアで、ひとつの議論の的となっています。あなたなら、こうした実情にどう接しますか?。「外来労働者」と題した、最近の特集新聞記事に目を通してみましょう。


          
           外来労働者

"GUEST WORKERS", 20-21 May 2006, The Australian Financial Review (Weekend edition)
の抄訳。

北シドニー、ニュートラル・ベイのある大手スーパーのレジ係の顔ぶれが、先の夏期休暇を境に、いっせいに入れ変わってしまった。それまでの地元の学生や中年女性はすっかりと姿を消し、インド人学生がそれにとって変わった。

その一人は、質問に答えて、自分は大学に籍をおく留学生だが、この仕事は、インドに居ながら応募した。この仕事はとてもいいと彼は言い、どんなに短い時間でも働け、バスを二路線乗り継ぐだけでこられる、とその理由を語る。

これは、インターネットが、身近な周囲の仕事を、いかに早く、かつ、国際的に変貌させるかの、実例でもある。

こうした変化は、オーストラリア移民史に新たな特色を加えるもので、また、労働力構成という意味でも変革をもたらしている。

もちろん、こうした移民労働者の登場は、「オージーの仕事を奪う」などと、大衆新聞に毎日のように取り上げられ、腫れ物のような問題となりつつある。

こうした問題は、労働力不足に頭を悩ます会社にとって役員会議の格好な議題となり、また、労働組合にとっては、475号(雇用主保証 employer sponsored) ビザを用いた雇用の外来労働者化と警戒する。

5月18日には、野党労働党は、雇用主がオーストラリア人労働者を解雇し、その職に一年以内に外国人労働者を雇うことを防ぐ、との独自政策を発表した。



大学は永住ビザの製造所
雇用主保証 による臨時居住者の数はこの一年で倍増し、この傾向は今後も続くと見込まれている。すなわち、この六ヶ月に、4万人分の臨時労働者ビザが発行され、この数は昨年度の一年分に相当する。

移民は最近まで、一生に一度の出来事だった。つまり、一定数の移民が毎年到着し、そうした人々は永遠に住み着いた。しかし、今や移民は、貿易商品にも似てきており、一時的な移動となっている。

毎年、およそ14万人の移民流入があるが、この数は、19万人の留学生、34万人のビジネス訪問者、6万人強の臨時労働者、そして、10万人のワーキングホリデー取得者などの数から比べると、わずかなものに過ぎない。

本来は労働目的でない入国が、本当は、別の目的をもったものとなるケースも多い。たとえば、教育制度が歪められ、大学は永住ビザの製造所とも化し、大学教員はあたかも移民コンサルタントとなっている。

移民が貿易用語となる時、ますますと労働力確保のための道具と変じている。永久の移住も、一時の訪問も、ともに、労働力の特性に応じ、使い分けられている。

ある教授によれば、「我々はかって、ある地域で成長し、そこで仕事をみつけ、そこに定着した。しかし今や、国をまたにかけて成長し、仕事をしている。これが現代で、そこに懸念が発生している」という。

こうした懸念から、政府は先に、産業界からの強い要望にもかかわらず、技能移民(skilled migration)の数を現行レベルに凍結した。しかし、こうして永住移民は制限されたものの、臨時移民の数は、ほとんど青天井にも等しい。

このように、社会の懸念は、永住移民より、臨時移民による臨時労働者の増加にある。ことに、そうした労働者が違法に酷使され、また、留学生が学位を目的とせず永住ビザ獲得を目的としていることにある。

上記の教授は、「こうした外来労働者依存には、ゆゆしい問題がある。第一に、それは年季労働であり、第二に、それは私的に扱われ、チェックやバランスを欠いている」と指摘する。

移民担当大臣も、「よからぬ使用者がいる」とも認め、機動的な摘発部隊の創設を考えていると発言している。

別の教授は、最近、臨時移民についての報告書をまとめた。それによると、「政府は、しだいしだいに、労働力問題を移民で解決するようになってきているが、問題は教育システムにあることを忘れている」、と指摘している。

「現政府が政権についてから、技術をもった労働者の供給を地元に期待することが不可能となっている。それは、政府が、地元の大学に新たな教育コースを開くことを認めず、また、企業も従業員に教育訓練することをしなくなっているからだ。」

「問題は、仕事のために人を教育訓練することにあり、ただ、どこかから誰かを連れてくることではない」と強調している。

二流の留学生、二流の移民
「オーストラリアにはつねに、19万人の留学生がいる。彼らは、週20から40時間の労働が許されている。そのほとんどは、永住権を申請する」と上記の教授は言う。

また、インド人留学生の問題を調査したあるPhD論文によると、いまや留学生のほとんどは永住を望んでおり、そのため、彼らは、もっとも安い、もっとも容易なコースを選択し、いくつかの二流大学は、彼らのためのコースを用意している、と結論している。

こうした留学生が増えた結果、永住権をもっている彼らを雇用しても、英語能力を欠き、オーストラリアの実生活を知らないため、仕事が続かないという問題も出ている。

そうした結果、専門学位はもちながら、タクシー運転手、ガードマン、ガソリンスタンド従業員などの仕事につく元留学生も多い。

そのため、留学生の英語能力検定をもっと厳しくすべきであるとの意見もあがっている。

二流の留学生、二流の移民を我々は受け入れている、という見方に異論はあるとしても、元留学生がその学んだ専門を生かした仕事についているのが三分の一というのは、正常な状態ではない。

(2006.5.31、抄訳、小見出し: 松崎)
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