高すぎて手を出せない住宅市場にあって

不動産ならびに銀行関係者によると、記録的な住宅価格の高騰は、初めて住宅を買おうとする人たちを、まずは不動産投資へと向かわせ、その物件の値上がりでもって、ローン購入の際の頭金の不足分に充てようとするケースが増加中という。

その渦中にあるのは、Y世代と呼ばれるベビーブーマー二世たちで、頭金を貯金しようにも、シドニーのような沸騰する市場——この一年間で、インフレ率の5倍という高騰率——での価格上昇の速度には、それではなかなか追いつけない。

こうした1980年代生まれの“技巧通”世代は、ベビーブーマーの親の世代——家を出て共同住宅に住んだ——より、親と同居して貯金に精出すことに抵抗はない。

「社会は大きく変化している」と大手住宅開発・建設グループ、マーバックの住宅開発部門取締役、ジョン・カーフィーは言う。

「両親とその子供たちの関係は、1940年代、50年代、60年代のようではない。その関係は友達みたいなもので、今の子供たちは親元から離れる気はない」と彼は言う。

カーフィーの会社は、常時、市場動向を調査しており、親子間の隔たりの少なさと、〔ローン購入の際の〕頭金額の多さは、なぜ、初めての自宅購入者の年齢幅が25~29歳から28~38歳へと上昇しているのかを説明していると分析する。

ブティーク調査コンサルタントのデジタル・ファイナンス分析所の所長マーチン・ノースは、「最近の不動産ブームに乗り損ねた人たちが、ネガティブ・ギアリングを活用し、比較的安価な投資物件を買いこんでいる」と言う。

〔子供たちが使っていた〕寝室が空となり、冷蔵庫がいつも満杯といった両親が待ち望む期待は、永遠に先延ばしにされ、代わりにその家は、子供たちの友人やかれらの好みに合わせて模様替えされている、と言う。

政府統計局の数値は、居住目的で住宅を購入した人たちのみを対象としたもので、初めての住宅購入者が、〔投資目的で〕都心外縁地域のアパートや郊外の戸建住宅を買っていることは見落としてしまっている。

初めての住宅購入者の三人に一人が、預金の不足分を“両親銀行”に期待し、市場に乗り出してゆくために、“友人関係”で築かれれたものが有効となるケースが増している、とノースはいう。

バンク・ウエストによれば、多くの住宅市場で価格上昇率が年10パーセントを越えている状況にあって、収入中の預金比率の記録的低さ——今後の数ヶ月、さらに下がることが予想されている——やインフレ率以下の賃金上昇率は、初めての住宅購入者が頭金を用意するために預金しようとする意欲をいっそう奪っている。

 

シドニーでは、頭金用意に7年間が必要

バンク・ウエストの調査によると、初めての住宅購入者が住宅価格の20パーセント分の頭金を用意するための期間は、全国平均で、2013年には3.9年であったものが、今では4年以上となっている。

それがメルボルンでは5年半、シドニーでは、中央価格の住宅購入のための頭金額、16万5千ドル〔1,580万円〕を用意するには、ほぼ7年を要している。

「低い金利は、ローンを借りやすくする一方、頭金を貯めるためには厳しい条件となる」、とバンク・ウエストの担当主任は語る。

郊外の戸建住宅はいまだに第一の選択肢だが、都心地帯やその周辺に立地するアパートは、ことに高価格のシドニーやメルボルンでは、いっそう注目され始めている。

 カーフィーが言うには、多くが、住宅を購入しても数年は両親宅に住み続け、 ネガティブ・ギアリング、賃貸収入、そしてその他の積立てを活用し、自宅購入に必要な頭金の用意を早めようとしている。

初めての自宅購入者の思惑は、まず投資として住宅を買うことにより、自らを市場価格の上昇の波に乗せ、そのうち、数年でその投資物件に引っ越しする人や、さらに投資物件を買う人もいる、とカーフィーは言う。

しかし、ことにシドニーのように、住宅価格が年に12.5パーセント——インフレ率の5倍以上——も高騰したところは、それも容易ではない。加えて、預金金利は歴史的低さで、5万ドル〔480万円〕を一年定期に入れたとしても、その金利は4パーセントにも届かない。

バンク・ウエストの調査では、頭金を用意するため、一組の夫婦が合算収入の20パーセントを10年間以上、貯金しなければならない地区は——毎月、定期的にオンライン貯金し、利率を最大化した条件で——、オーストラリアに20以上あるという。

ノースは、「どこの物件を買うべきかを迷う人が増加しており、初めての住宅購入者にとっては、その有効な戦略を立てることすら困難となっている」、と言う。

物件の過剰供給、ことに戸建住宅の不足からアパートの供給ラッシュは、投資家をいっそう不安にさせている。

例えば、パースでは、アパートや戸建住宅の賃貸収入は、この一年間で、それぞれ9パーセントおよび9.5パーセント下がっている。キャンベラやダーウィンでも、アパートや戸建住宅の賃貸収入は下落している。

シドニーやメルボルンでは上昇しているが、全国平均ではマイナスなのである。

 

“すねかじり”が増加

大卒、24歳のアニカ・ドゥーセクにとって、メルボルンのサンドリンガム地区の入り江に面し緑に包まれた両親宅以外に、彼女の居所は考えられない。

「ここが好きなの」とアニカは言う。「両親ともうまくいっているし、自分の居場所もあるし、プライバシーも守れるし、家賃の心配もないわ。」

「二階に私自身の場があって、下に降りれば両親がいる。」

こうした環境は、ベビーブーマーの両親たちの世代のそれとは大きな違いである。彼らは、十代の終わりまでに家を出、二度と戻ることなく、数年の賃貸生活を続けた後、自宅を手に入れていた。

アニカは、パートで働きながら、図書館員のフルタイムの仕事を探している。そうした生活は、車や、自宅購入の頭金を貯めるにはこの上もない環境である。

しかし、彼女の世代にとって、住宅市場に入ってゆくことは、しだいに困難となっている。メルボルンでは、その頭金を貯めるには平均5年半を要し、それは2009年と比べ、1年も長くなっている。

高給の仕事は減っているし、貯金金利は最低で、住宅価格はうなぎ上りである。しかも、多くの州政府は、新築住宅を建てるか買う場合以外、初めての住宅購入者への援助を打ち切っている。

アニカにとっての出来うる選択は、住宅購入ローンを組んで投資物件を買い、その賃貸収入で、金利や必要出費をまかなうことであろう。

もし彼女が、税引き後の収入の内の相当な部分を5年半にわたって貯蓄することができなかった場合、彼女にとっての残された選択は、郊外か魅力の乏しい安価な地区にある、アパート——戸建住宅は無理——を選択することしかなくなる。

 

(本記事は、1月2日付、Australian Financial Review紙の記事、Property investment rent and gearing become step to home ownership、の本サイトによる全訳)

 

Bookmark the permalink.