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謎解き作業
昨年8月増刊号の 「郵政解散」総選挙に際しての両生風視界 で、日本の近代史についての 「謎解き」 について述べ、総選挙の分析の根拠のひとつとしました。
その際、触れているようで、触れられていない、あるいは、触れられないテーマが、「天皇」でした。
日本人にとって、それがタブーであることすらタブーであるほどに、当然な存在とも、あるいは、アンタッチャブルでもある、特異なアイテムです。
上記のエッセイでも取り上げましたが、この謎解きには、司馬遼太郎もいどんでいます。
彼は書いています。 「昭和ヒトケタから同二十年の敗戦までの十数年間は、ながい日本史のなかでもとくに非連続の時代だった。」 (『この国のかたち 第一巻』
p.36 )
彼は、そうねらいを定めたその時代について、その 「非連続」 を引き起こしたものを問います。そして、その 「鬼胎」 のような存在として 「参謀本部」 をあげ、次のように書いています。
- 参謀本部にもその成長歴があって、当初は、陸軍の作戦に関する機関として、法体制のなかで謙虚に活動した。
日露戦争がおわり、明治41年(1908年)、関係条例が大きく改正され、内閣どころか陸軍大臣からも独立する機関になった。やがて参謀本部は “統帥権”
という超憲法的な思想 (明治憲法が三権分立である以上、統帥権は超憲法的である) をもつにいたるのだが、この時期にはまだこの思想はそこまでは成熟していない。だから、日韓併合の時期では、のちの
“満州事変” のように、国政の中軸があずかり知らぬうちに外国に対する侵略戦争が “参謀” たちの謀略によっておこされるというぐあいではなかった。
しかし、将来の対露戦争の必要から、韓国から国家であることを奪ったとすれば、そういう思想の卸し元は参謀本部であったとしか言いようがない。(上掲書
p.31)
司馬遼太郎はこのように、参謀本部と統帥権を、その “犯人” として絞り込むまでには至っていますが、しかし、彼は、そうした動きを、誰が構想し、誰が指揮したのか、そこまでは踏み込まないまま、亡くなってしまいました。いわば、制度と思想がそう導いたかのような分析で終わっていますが、制度や思想が人の手をへないで自然発生するわけではありません。
そこで発生してくるのは、むしろ、 「誰が」 というこの問いです。
英文による原書で JAPAN'S IMPERIAL CONSPIRACY という本があります。David Bergamini (ディビット・バーガミニ) と言うアメリカ人が著者で、1971年に出版された本です。このタイトルを直訳すれば
『日本の天皇の陰謀』 となります。
この本は、索引を含め、1,240ページにもおよぶ分厚い本ですが、いま、これを訳しはじめています。ただ、その邦訳版は、70年代のなかばに、いいだもも
の訳で 『天皇の陰謀』 とのタイトルで出版されています。古本でもたくさん出回っており、容易に手に入るはずです。
この本は、数年前、私のオージーの友人のひとりより薦められたもので、一時、彼から借りていました。一見すると、その内容は日本人にはとても重たい内容で、英文であることを別としても、軽々しくは読み進むことができませんでした。しかし、上記の
「謎」 に答えるにたる内容を持っていそうであることは分かりました。
そこで、その後に、英語版のアマゾンでその古本をみつけたことから、それをアメリカから取り寄せ、自分の蔵書に加えました。そうではあったのですが、それでもなかなか手が出ず、最近まで、たなざらしとなっていました。
それが、一念いたって、それを正確に読みこなそうと、日本語に訳しながら、一行、一行、噛みしめるように読み進めています。
今現在、推薦者による 「まえがき」 と、著者による序論、「著者から読者へ」 を “訳読” し終わり、いよいよ本文に入ろうとしているところです。
そこでですが、本サイトの読者と、この “訳読” を共有するために、拙訳ではありますがその邦訳版をこのサイトに掲載し、そのコメントや感想を連載してゆこうと思います。毎日のなかで、時間をみつけての訳読作業ですので、平均すると、日に一ページほどのカタツムリ級速度での進行です。このペースでゆくと、完了までには3年はかかります。したがって、全翻訳をお急ぎで知りたい方は、どうぞ、古本をお買い求めください。
で、その掲載ですが、私は、そのサイト内題名を 『ダブル・フィクションとしての天皇』 としたいと思います。今号より、この題名のコーナーを設置していますので、そこに、逐次進む翻訳と、コメント類を掲載してゆくつもりです。
(松崎 元、2006年6月11日)
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