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<連載> ダブル・フィクションとしての天皇 (第19回)
不連続面
天気図には、等高線による同心円状模様のほかに、のこぎりの歯のような線で表わされる前線があります。前者は連続的に気圧の変化している部分を表し、後者は暖かい気団と冷たい気団が接触し合っている不連続部を表します。従って、その不連続面である前線上では、温度の違った二つの気団がぶつかり合い、激しく雲が発生し、地上では、悪天候に見舞われます。
本訳読もいよいよ幕末にさしかかり、国内の歴史として発展してきた連続した変化が、異国との本格的遭遇として、日本史上はじめての不連続面=前線に差し掛かります。当然、地上社会は疾風怒濤の天候にみまわれます。
日本人なら誰でもそうだと思うのですが、そうした幕末の「疾風怒濤」のあり様を、日本側から見た話として――教科書的にも、あるいはもっと突っ込んだ分析としても――親しんできたはずです。
一方、そうした話が、この訳読では、日本生まれの著者とはいえ、アメリカ人であるバーガミニの目を通して、向こう側から見たストーリーとして描かれています。
当然ながら、両者には明らかな見方のギャップがあり、日本が体験しはじめている不連続面がいかなるものであったのかを垣間見ることができます。
たとえば、些細なことながら、そうした江戸時代末期を描写するにあたって、時を表す場合、単に年月日だけの表現に終わらず、バーガミニは、それに曜日までも付けています。江戸時代で何かの出来事があった日が何曜日であったなど、考えてもみなかったことでした。むろん、日本人が曜日による生活を始めるのは、そうして開国し、しだいに社会が洋風化して行った結果のことですから、それも当り前のことなのですが、こんなことにも、たしかな不連続が存在していることを確認できます。
そうした不連続に遭遇し、過去二世紀の間、何とか折り合いをつけて平和を保ってきた日本の二大支配勢力、天皇と将軍の間にも、西洋からの強烈な圧力のもとに、いよいよの亀裂が入る事態に至ります。
では、今回の訳読へとご案内いたしましょう。
(2010年3月14日)
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