日豪経済・ビジネス関係に新たな潮目

熱力業風景(その15)

原油価格の劇的な下落により、世界経済の潮目が変わりつつあります。しかも、原発停止の基幹代替エネルギーであるLNGの価格も石油価格に連動しており、文字通りの産業の原動力であるエネルギー価格のこうした下落は、世界の産業構造に少なくない影響を与えないはずはないからです。

オーストラリアにおいても、つい最近まで、その輸出産業の新主役へとのし上がってきていたLNG産業が、豪ドル高とこのエネルギー価格の下落によって、その座を揺るがされつつあります。

別掲記事にあるように、その影響は豪州政治にも、連邦、各州の両面において、深刻な影を落し始めており、これまでの資源主体の経済運営に代わる、新たな主柱が模索され出しています。

ことに南オーストラリア州では、自動車産業の全面撤退による衝撃に加え、今後の頼みとしていた資源産業での投資計画の棚上げが相次ぎ、州経済の行方をめぐって、戦略を立て直さねばならない事態に至っています。

そうした政治・経済情勢の中で、とかく、巨大な量的存在感を示してきた中国の勢いの影に薄れがちであった日本が、オーストラリアの経済において、その各々は比較的小振りながら、新規な分野を開拓しているように見受けられます。

それはたとえば、日本の大手商社が、こうして下落したオーストラリアの地下資源権益を中・長期的な視点から、撤退や縮小よりむしろ、生産効率増強をてことした保持、拡大をはかっています。また、日本の製造業の柱のひとつの造船業と近年拡大動向の防衛産業の合体ともいうべき非原子力型潜水艦の建造をめぐって、オーストラリアの次世代潜水艦の建造が日本企業に外注されるかもしれない情勢を生んでいます(ただし、地元産業を奪う反発も伴い、バーターした開発——例えばオリンピック・ダム鉱山——が望まれます)。また、住宅建設、湯沸・冷房機器、IT製品、衣料、化粧品などの各種製造業、あるいは、保険、ビジネス・サービス、外食業などの第三次産業の進出も着々とすすんでおり、一見地味ながら、日本の存在は、かってのバブル時代とはその特徴を変貌させた姿で、着実に広がっています。

上記のように、地元産業との競合問題は課題となる一方、今後拡大が予想されるPPP(PFI)方式を主体とするインフラ投資の分野は、ウィンウィン関係の期待できる分野です。

こうした情勢の反映のひとつとして、カンタス航空は、来年8月より、シドニー・羽田便を毎日就航させる決定をし、他方、これまでのシドニー・成田便枠は、オーストラリアの他都市との便に使われる計画です。また、これに合わせてJALも、オーストラリア便の増便を検討中のようです。

こうした情勢を総合しますと、オーストラリア経済は、中国経済のダイナミックな成長のスローダウンによって、その爆発的インパクトは鎮静化し、むしろ、その安定化した変化に歩調を合わせ、資源産業での縮小分を補う、高付可価値製造業の育成や産業基盤の高度化と雇用創出を狙うインフラ整備など、今日の日本産業が強みとする分野が着目され拡大する傾向があると言えましょう。

来年1月15日からの日豪経済連携協定の発効も、こうした潮目の変化を加速させる要素となるでしょう。

こうして、日豪間の経済・ビジネス環境は、かっての物品輸出入を主体とした交易重視関係から、ビジネス投資を主体とした、より緻密かつ多角的に、高度化された相互関係へと移行しつつあります。

つまりそこには、両国の経済・ビジネスの慣行、企業文化、人間・人事関係問題など、これまでにはさほど重視されなかった新たな分野——ビジネス・ソフトウエア分野——での能力が課題となってきています。

 

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