「心臓破りの坂」と「体内洪水効果」

修行風景 中堅編(その10)

以下は、職業的修行に関するものというより、別掲の「健康エコロジー実践法」にもからんだ話題です。

私は、今の週三日の寿司シェフの仕事に、相変わらず自転車で通勤しており、それにまつわる健康上のエピソードです。

現在の私の仕事場はシドニーの街の反対側に位置し、そこまでの距離もその道中も、自転車通勤向きではありません。そこで、“キセル”自転車通勤とでもいいましょうか、中間部は電車を使い、両端のみで自転車を使っています。

そのため、電車には自転車ごと乗り込みます。折り畳み式自転車とはいえ、朝夕のラッシュ時の通勤には、ちょっと不向きな方式です。このシェフの仕事のように、変則的な時間帯に向いたものとは言えましょう。

その両端の自転車通勤のうちの向こう側なのですが、私の働く店はローズベイというシドニー湾に面したひとつの入り江地区にあり、一帯の地形は海岸線が入り組み、景色もよくてちょっとした風光明媚地区(そのため一級の富裕階級居住区のひとつ)です。

そうした地形のため、通勤に使う道中には、二箇所の嶺線越えがあり、高度差にして、十数階建てのビルほどでしょうか、「山越え」をせねばなりません。

その一つは比較的アプローチが長く、さほどきつい登りではないのですが、もう一つの駅寄りの坂は、車でもギアーを落としエンジンをふかして登るほどの急坂です。

行きは、この坂を目いっぱい飛ばして下りますので、時速50キロはゆうに超えて疾走します。

問題は、帰りのこの坂の登りで、心臓の鼓動はもう「早鐘を打つ」どころか、最後には、呼吸も心臓も文字通りの最大出力を出し切って、パンク寸前かの状態に達します。ことに、夜も遅くなり、電車の数も限られてそれを逃したくない時なぞ、まさに状況は“限界的”とさえなります。

こうして、ほんの二、三分ほどながら、自分の体に最大限の負荷をかける運動を、週に三日づつ行っているわけです。

最初、このきつい負荷が原因で、それこそ心臓麻痺でもおこすのではないかとの心配すらしました。しかし、それを繰り返しているうちに、何か、あるプラスの効用があるような気がしてきているのです。

それは、急に行えば危険なのでしょうが、毎週のことですし、そこまでに達するには、そこそこの坂も登って準備運動もこなした後のことです。そこで、一般にいう運動効果に加えて、ある種のインパクト効果といったようなものがあるのではないか、と感じているのです。

それは、たとえば血管中に何か小さな血栓とかコルステロールの滓がひっかかっていて、普段の運動による血流の増加程度では流し切れなかったものが、このインパクト効果による大きな血流増でそんな血管中の“ごみ”がいっきょに押し流されてしまう、といった感じの効果です。あるいは、激しい呼吸増による脳へのふんだんな酸素供給のもたらす、老化予防効果です。

いわば、体内での「洪水現象」がもたらす、量的、質的な体内浄化効果があるのではないか、そんな感じの体験です。

 

 

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