日本の買い物攻勢とひそむ懸念

  熱力業風景(その16)

昨年末のこの風景記事に、日豪の経済・ビジネス関係があらたな潮目を迎えているとレポートしました。そうした新たな流れを象徴する進展が、今年に入って、まさに劇的とも言えるほどに見られています。それはまず、日本のリクルート社が、オーストラリアの大手および中堅人材派遣会社を、同時に二社、買収したことです。そしてそれにつづいて、日本郵便が、オーストラリアの大手輸送会社、トール社を買収しました。

日豪間では、今年1月15日より、日豪経済連携協定(EPA)が発効し、関税が引き下げられるほか、M&Aに関しても、政府の許可を必要とする総枠金額が引き上げられ、その促進がはかられています。

こうしたリクルートによる、チャンドラー・マクロード社とピープルバンク社の買収ケースも、また、いわば国内企業の典型とも言える日本郵便が、今年秋の株式上場を控えてグローバル化へ打って出る変身の第一歩であるこの買収劇――6千億円を超える大買い物――も、そうした新たな日豪経済を象徴しているものと言えます。

こうしてオーストラリアへ、日本の方から大挙してやってきてくれる情勢は、当地で日本関連のビジネスにたずさわっている者にとっては、まさに天運です。

さてそこでなのですが、以下は、私たちのように、微々たる存在にすぎないビジネスにしては口幅ったい言い回しとなりますが、こうした大規模な買収のセンセーションさに隠れて見えにくい、極めて懸念される面があります。

それは、本コーナーでも繰り返し取り上げてきていますように、オーストラリア経済社会のもつ、労使関係の難しさです。つまり、一筋縄では扱い切れない、労働組合の存在です。

オーストラリアは、今日の世界にあって、スローダウンしているとはいえ、先進国中では群を抜いて経済の好調さを示してきました。他の先進国と同様に、高いサービス産業生産を基盤とするその経済にとって、国民が得ている今や世界で最も高い水準と言われる勤労収入も、活発な労働組合運動による労働者側の獲得成果と観測できます。一例をあげれば、オーストラリアの法定最低賃金は時給にして17.29ドル、円換算して1640円で、世界一の高水準です。

こうした好調な経済を維持するオーストラリアは、確かに、マーケットとしての魅力は事欠きませんが、ビジネス運営とか製品生産、つまり、人に働いてもらうという面では、きわめて手ごわい世界であるわけです。

逆に言えば、そうした懸念の存在は、その分野におけるBtoBサービスを手がけるその道のエキスパート企業にとっては、大きなビジネス機会が潜在していると言えます。

話はやや飛躍しますが、どのビジネスも、その発展の最後に遭遇する課題は、結局、人間の問題、すなわち、労使関係に行き着くと言って差し支えないでしょう。

今日、この人間の問題が外注化される動向、つまり、派遣ビジネスが拡大してきているわけですが、ことに、そうした人間ビジネスがネックでありかつ特異なビジネス機会となっているのが、オーストラリア経済と言えます。

ちなみに、来年中の初出荷をめざすINPEXのイクシスLNGプロジェクトについても、まさにこの人間の問題、すなわち建設現場での労使紛争が紛糾して、計画の大きな遅れをまねいていることがあります。おおやけに、ことに日本で報道されることはないようですが、その遅れは、ほぼ一年にはなっているとの見方が現場関係者の常識的見解です。

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