「歴史への真摯さ」とは、歴史的出来事と、その出来事を記録し表象する作業に関わっている人々、そして表象されたものを見たり、聞いたり、読んだりする人々の間での一連の相互批判的な関係の全体を通じて表されるものである。一方、「歴史の真実」という言葉は、歴史家がすべて認識可能で叙述可能な完結的リアリティーをもった現実世界が自らの外に存在し、しかもそこに「真理」と呼び得る実体があるかのような印象を抱かせてしまう。しかし、これは幻想である。なぜなら、「歴史の現実」というものが存在しないからではなく、「歴史の現実」がいくらでも存在するからである。現実を構成するものは非常に複合的であり、互いにつぎ目なく結合しているので、その部分は、言語によって構成される意味の網の目ではとらえきれないのだ。 |