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    修行第十七風景


 職人の世界では、その職場の先輩がやめない限り、上にはあがれません。ましてや、自分の下のものがやめたりすれば、逆戻りにもなりかねません。
 私の場合も、7月から、「兄弟子」が新たに開業した寿司店に移り、彼のポジションに私が繰り上がることとなりました。一年前、店の所有主が変わった際から彼はこの転職を決心していましたが、あいにく、転職先の開店がカウンセル(日本で言えば区役所)の営業許可が下りず、新オーナーもこれぞ幸いと彼を引きとめるのに熱心で、結果、延びのびになっていたものです。
 くわえて、6月最後の週からは、それまで夜のみ営業であった店が、週末(金、土、日)に限り、ランチタイムも営業を始めることとなりました。新オーナーからは私にも午前中からの勤務の要請がありましたが、それは出来ないと断り、結果、週5日(火〜土)勤務、寿司部門にはうち、火、水、木の三日、出ることになりました。
 新オーナーにしてみれば、大枚を費やし店を取得したものの、あいにく、その時が店の景気のピークだったようなものです。それ以降、金利の相次ぐ引き上げや、さらには最近のガソリン価格の急上昇も加わり、人々の財布のひもは締まる一方で、売上の伸びも頭打ちとなりつつありました。ですから、週七日ぶっ通しの営業や、さらに昼間の活用も、理由のないことではありませんでした。ただ、店はいわゆる繁華街ではない立地にあり、営業時間を長くしたからといって、それが売上の拡大に結びついているとはいえず(少なくとも今までのところ)、逆に、営業時間の拡大に伴う人件費などの固定コストの上昇により、もうけはかえって下がっているのではないかと思われます。
 ともあれ、そんな変動の中で、私にとっては、こうして新たなチャンスが到来し、また、今の冬の時期、当地では、寿司は(暖かい食べ物でないため)売れ行きが下がって忙しさもほどほどで、不慣れな新米が入ってゆくには無理のない季節ともいえます。そういう次第で、不思議にも、事態は私にとって、格好な成り行きとなってきました。
 予定では、この寿司修行も残すところ8ヶ月、こうして与えられた機会を、無駄にしないようにしたいと思っています。旧オーナー(パートタイムのマネジャーとしてまだ店に出ています)が、またしても私にこう言ってくれました。「辛抱したらまた機会が増えましたね。」

 話はかわりますが、今、シドニーは寒さの盛り。ことにこの二週間ほど、それまでの暖冬が急に正常にもどり、南のオーストラリア・アルプスのスキー場も、雪不足の心配がふっとんだようです。
 そのあおりで店の人たちの間に風邪が蔓延し、次々に感染してほぼ全員にひとめぐりするような状況です。そうした中、ひとり、風邪のかの字も、ゴホンともやらない人がおり、不思議がられています。
 それは私なのですが、当方としては、風邪の経験も人一倍あり、自分が風邪をひく前兆もよくわかっています。ですから、危ないなと思ったら、間髪を入れずに塩水でうがいをしているだけなのですが。直接にはこの対策が、間接的には、自転車通勤で寒風にさらされながら汗をかいているのも予防に役立っているのかもしれません。
 そういう次第で、一番の高齢ながら、もっとも健康でけっこうタフとの評判ができつつあるみたいです。

 【追記】 先週から、金曜日の昼間営業が取りやめになりました。

 (2008年7月3日、14日追記)

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