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 私共和国 第2回


         立体化路線


  私は前回で、この世の中を 《二重底》 と見て、 「こちら側つまり上底」 と 「あちら側つまり下底」 を股にかけて生活しているといいましたが、この 「私共和国」 の中でどのように暮らしているのかというと、じつにハッピーで意欲的です。
 それは、ちょっと理屈っぽく言うと、この 「二重の構え」 のお陰で自分のすべての居所がみつかり、全体性といったものが実現しているからです。
 また、感覚的に言えば、これまでの人生で、これほど充実した日常生活感をもったことはありません。昔の自分から思えば、ことにある時期の鬱屈した時代から思いおこせば、こんなうれしい将来がやってくるとは、予想だにしていませんでした。
 ですから、日々の中で、たとえ下底で時間を送っている時――たとえばお金稼ぎのための労働――にあっても、かってのように、自分を殺して働かなくともよく、とても素直にふるまっている自分すら発見しています。その時の気分は、いわば役者にでもなっている気分で、そこではそう演じている自分は一部でしかなく、その背後に “本名” の、時には “ないしょ” の自分があり、全体としての私が失われていないからです。
 そこでの秘訣を手みじかに言えば、精神的には自尊、物質的には貧乏につきます。ことに後者については、私はいま、商品として手に入るものはみな偽物だ、との実感を日増しに深めているのですが、そうして商品には用心していると欲しいものもそうはたくさんなくなり、それこそ、貧乏生活で十分なのです。
 また、そういう生活をしていると、自分でできることがけっこう色々あることにも気が付きます。そうして自活の世界をじわじわ広げてゆくと、自分にこんなこともできるんだ、といった楽しい発見も伴ったりして、年はくっても、捨てたもんでもないんじゃないか、と思えてきます。そしてこれは、前者の自尊にもつながってきます。
 それは、拡大路線でないことは確かですが、だからといって縮小路線でもなく、しいていえば、立体化路線とでもなりましょうか。そしてなにより、 「環境」 とも、親しい友人であり続けられます。

 (2008年7月31日)


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