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 第二期・両生学講座 第8回


論文風な物語り


 いよいよ 『相互邂逅』 は、その第二部に入りました。
 この第二部は、第一部と少々その趣を変えて、 「論文風な物語り」 となりそうです。
 というのは、ひとつは、9年前に、 『卒婚・失婚』 と題した自分史――この第二部とほぼ同時代を扱った――を書いたのですが、それを改めて読み直すと、いかにも稚拙で単面的過ぎる作品であったことに気付かされ、ただの改訂版のみならず、そのモチーフの繰り返しも避けた作品にしたいと思うからです。
 また、第一部で主要な手法となっていた 「回想法」 方式についても、その真実味を引き出す有力な武器であった 「ノート類」 も尽き、また、オーストラリア到着後も引き続いてのノート記録は存在しているものの、それを取り上げる新味は後退し、その意味も変わって来ており、それに代わる手法を求めたくもなっています。
 ことに、オーストラリア生活という人生後半の舞台にあって、そういう 「自己移植」 過程の表現は、それがあえて行っている実験的試みという
主体的角度も取り上げる必要があり、言わば 「主」 「従」 を股に掛けた、一人二役状の構造も持たねばなりません。
 それに、先の 「私共和国」 で 『三位一体』 とのタイトルで書きましたように、現在の僕は、両生視野をへて、三次元構造の視点へと自分を収斂させてきています。
 こうした、それなりに複雑で、人為的かつ選択的な諸シーンを描こうとすると、一般的な物語りのスタイルでは寸足らずで、語り部風の論者や分析者の視点も必要としています。そこが、論文風なスタイルにならざるを得ない背景です。
 こうして技巧をこらそうとする余り、その産物は、読み手にとって、いくらか手ごわい印象を与えるものとなるかも知れません。
 一般に、長所と短所は背中合わせとなりやすいものですが、その両面に気を配りつつ、この 「論文風な物語り」 ――ひょっとすると 「物語り風な論文――を試みてゆきたいと構想しています。

 (2008年12月30日)


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