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第三期・両生学講座 第5回
別掲で続いている連続小説 「メタ・ファミリー+クロス交換/偶然」 はまだ完結していませんが、この小説を書くことで、私の人生の送り方が、本格的に
「メタ」 時代にはいってきたかの感じがしています。
この 《 「メタ」 時代》 とはどういうことかと言いますと、いわば、現実、空想、半々の生活というもので、私の若い頃からの 「この世をしのぶ仮の姿」
とか、近年の 「両生空間」 とか、またもっと最近の 「両生空間のメタ化」 といった流れの延長上にあるものです。
つまりは、そういう 「二分化した自身」 のその 「二分化」 の度合いのいろいろなバージョンの最近版ということですが、それをことに 《 「メタ」
時代》 と呼んで、いよいよ、その空想側のウェイトが、現実側を勝り始めている、とでも言える段階に来ていることに注目しているわけです。(まあ、それでも、それが新たな “現実” であることには違いありませんが。)
そういう次第で、小説を書くつまり作家になるとは、そういう “霞を喰って生きる人間” になったということなのですが、私の場合、それにおよばず、その作品が現の生活の何の足しにもならない――つまり
「売れない」 あるいは 「売らない」 作品でしかない――ことによって、その 「二分化」 のコントラストが、いっそう克明で紛らわしくないものとなっている特徴があります。
人間、生きるという生命現象を維持させてゆくには、否が応でも、現実世界への何らかのコミットメントを抜きにはできないわけですが、小説書きという
“空想” 世界を描写するための “現実” 作業をへることで、現実世界への空想世界の侵略は、たしかに顕著となってきています。そういう意味で、現実を見る観測眼も、それなりの地位ができつつあるようではあります。
そこでなのですが、私はその本をまだ読んでいないのですが、松岡正剛の 『千夜千冊』 の最新号で紹介されている 『資本と言語』 という翻訳本の書評をヒントに、そうした現実のもっとも顕著な要素である、お金の問題について、一種の我が意を得たりの気持ちを見出しています。
このイタリア人のマラッツィが書いた本は、もはや現代の金融とは、人間の使う言語の役割にまで達しているということを書いているようですが、たしかに、それはただのお金の問題を越えて、もっとメタ次元なものへとおよんでいます。
たとえば松岡はこう書いています。
- それによると、マラッツィは今日の資本主義社会をよくありがちな「実体経済」と「擬制資本」という二分法で読むのはまちがいだと見たわけなのだ。そのうえで、金融化とは「新たな価値生産過程に釣り合った資本の蓄積形態そのものだ」とみなしている。これを象徴しているのは各国で一斉におこった「年金基金」の金融化であった。
- 年金とは何かという問題は案外難しいが、その本質は「明日の生活」に根差した「遅延された給与」であるということにある。しかし、いま多くの年金基金が株式投資市場に回っているということは、生活者の「生」がダイレクトに資本のリスクと強力に結びついてしまったということでもある。「明日の生活」を資本の取引や金融言語に委ねたということである。
また、別の例では、新聞の生活欄の特集などで、たとえば 「年金はいくらあったら充分なのか」 などと言った質問に、ファイナンシャル・プランナーといった肩書の言語使いが、それに回答しています。この言葉こそ、ここでいう金融言語であって、金融に素人である私たちは、そのプロの御託宣に従わざるをえないかの関係を強制されがちです。
それでなくてもリスクに富んだ私たちの生活に、どうして資本のリスクまで背負わされなきゃならないのか。そこには、言語化した資本の論理が、私たちの生活の隅々にまで浸透してきていて、いつの間にやら、その論理にからめとられている仕組みがあるわけです。
前にも、 「健康という年金」 にも書きましたが、そこには、私たちの手持ちの資源をいったんお金に代えてしまうと、どうしてもそれが避けられない、資本や金融の論理の牙城とその支配があります。
私も、飲食産業の労働者として働いていて、オーストラリアの制度として、給与の9パーセントが、強制的に年金基金に積み立てられていますが、先日受け取った昨年度の運用実績は、マイナスとなっていました。
松岡のまとめでは、そうした資本によるからめとられを避けるために、「 『コモンウェル』 (共有の富)の奪還をはからなければならないということになる。公でも私でなく、また公でありながら私でもあるような
『共』 (コモン)の奪還だ。しかしそんなことができるのか。かなりの代価も覚悟しなければならないのではないか。」
それが 「かなりの代価」 に見えるのも、金融言語の圏内にあるからではないのか。
(2010年10月6日)
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