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熱力業風景
(その3)


余りにオーストラリア的な


 こんな構想を模索しています。
 イクシス・プロジェクトという、LNGプロジェクトとしては日本 (INPEX) が初めて事業主となって実施する 「日の丸プロジェクト」 に関し、いまひとつ、詰めの甘いところがあるのではないか、という着想です。言い換えると、このプロジェクトと関わる因縁がもし私にあるとするなら、私とそれとの接点は、ここにしか置き得ないだろうとの、 “袖の触れ合い” 点についてです。
 その着想をかいつまんで言えばこうです。最近のオーストラリアの人件費と材料費の高騰による予算超過の事態を避けようと、イクシスの場合も、先の1月13日の投資正式決定を前に、検討期間を延長してコスト問題を改めて精査――その結果もあって、当初の約1.5兆円の概算予算が2.6兆円にも拡大した――しました。また、資材や装置の製作も、コスト高なオーストラリア国内での実施をできる限り避け、大半の装置を海外でモジュール状にまで仕上げ、オーストラリアのプラント建設地では、ただ組み立て工事のみに限定する、といった工法を採用して、人件費や材料費の変動要素を最小化しようとの対策がとられています。
 そこでなのですが、では、これで万全なのか、ということです。つまり、たとえ、そのほとんどを海外で製作して、現場では最終的組立工程を残すのみだとしても、相手は、なんといっても、何千億円をも費やして建設される大規模なプラントです。その組み立て工程だけでも、それは膨大な工事量となります。しかも、そうした多数のモジュールは、すべて、海上輸送で到着するというわけです。
 ということは、なんと不運なめぐり会わせか、こうした分野はいずれも、オーストラリアでも、もっともミリタント(戦闘的)といわれる諸労働組合が根城としている分野であることです。すなわち、海上輸送は海事労働組合(MUA)、建設業とエネルギー、鉱山分野は、建設・エネルギー・鉱山・一般労働組合(CMEU)、電気・設備関係は電気工労働組合(ETU)、と言った具合で、いずれも、手強さ番付の上位三役が勢揃い、といった図でもあるのです。
 これはすなわち、海外に持ち出せない国内密着度の高い職種がこれらであり、そうであるがゆえ、国際的競争にさらされにくく、その分、組合としても鼻息の荒さを保っていられる分野であるのです。そういう意味では、この一見偶然に見えるめぐり会わせも、それは、そうした工法を選んだがゆえの、必然の選択結果でもあるのです。
 むろん、プロジェクトの設計・建設管理を行う元請エンジニアリング企業段階では、そうした建設作業は下請けの建設会社に一括契約として発注され、その責任のもとに実施されることで、予算過剰や工事遅延のリスクは彼らが負う手筈となっています。そういう意味では、準備は万端です。
 確かに、契約上や技術的な観点においては手抜かりはないでしょう (ただし、そうした契約の割合は75パーセントほど)。しかし、洋上施設やパイプラインを含めて2兆円超規模のこのプロジェクトには、数千人の労働者、数百の業者が群れをなして取組み、工事村まで出来上がって展開されるメガプロジェクトです。そして重要な点は、そのプロジェクトが建設される地が、自由な発言も団結権も保障され、かつ百年以上の長い伝統をもった、オーストラリアという人権先進国内であることです。日本企業が手掛けてきた過去のプロジェクトの多くがそうであったように、中東や南米といった、ものもろくに発言できない、発展途上国でのプロジェクト建設ではありません。ましてや、今後のオーストラリア国内では、すでに着手したものも含め、同様規模の開発プロジェクトが相次いで計画されており、労働者不足が限界を超えてゆくのは明らかであることです。そうした明瞭な労働力の売り手市場の環境にあって、数年を要する工事期間中、労働争議が生じないですむはずがありません。
 オーストラリア政府にしてみれば、すべての情報は公開されていることであり、しかも、民間の自由契約によるプロジェクトであるわけですから、それは、関係者の互いの自己責任で遂行されるべきものです。そこなのです。
 このプロジェクトに比べれば小さな例ですが、過去、オーストラリアに乗り込んできて、そうしたオーストラリアの “自己責任地獄” にさらされた日本企業は少なくなく、キリキリ舞させられた企業を幾つか見ました。
 トラブルが発生するだろうことは、残念ながら、そうとうに確かでしょう。

 さて、そんな心配をこの私がしているわけですが、それで、いったい何になるというのでしょう。
 余計なことに首をつっこみ始めているのでなければよいのですが。

 (2012年3月22日)

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