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熱力業風景
(その13)


ある仲介ビジネスの試み



 10月22日の本欄で「時代は変わった」との題目で、1980年代当時のオーストラリアの労働組合運動のダイナミックさを回顧しましたが、それから30年、その勢いもいまや昔話となり、現状は守勢と組織エゴの目立つ変わりようです。
 そうした情勢の中、せめて往年の輝きの一端を再現せんと、かってのOBたちのネットワークが活躍しているのが、この間の「熱力業風景」であります。
 幸いなことに、そうした勢いの衰えの側面でもありますが、現在までのところ、熱力業プロジェクトでは顕著な問題は発生しておらず、いい意味での有閑となっています。
 そうした経緯にあっての新たな試みとして、身近な人脈を活用した、ビジネス機会の国際的マッチメーキング、すなわち、仲介役ビジネスに乗り出しています。

 日本と言えば有数の山国で、その狭い国土から世界屈指の生産高を導く、高度なインフラが発達してきています。それを下支えしてきたのが日本の土木技術で、なかでも、そのトンネル技術のレベルの高さが挙げられます。それは単に、山をうがつトンネルという面ばかりでなく、狭い国土での土地に制約の多い発展の必要から、都市においての立体化、つまり空に向かっての建物の高層化にならぶ、都市の地下深くへの発展があります。いまや、都市部で大規模なインフラ整備を新規に行う場合、その余地は地下に求めるしかないわけで、そうした必要からも発展してきた技術です。
 そうした日本のトンネル技術と、それと対照的な、平坦で広大な土地を特色とするオーストラリアで、トンネルの必要の少なかった土地柄の事業とを結び付けようとの発想が、この仲介役ビジネスです。
 やや専門的な話となりますが、トンネル工事とは、そのトンネルをうがつ地質とのたたかいとも言えます。たとえば固い岩から泥地まで、その条件しだいでその工法も大きく変わります。
 硬岩の場合、穴さえうがてば掘りっぱなしでも使えますが、泥地の場合は、シールド工法といって、筒状の鉄枠を前方に押し進めながらその後に円形の枠をはめ込んでゆくという方法がとられます。
 一方、工事の効率化という意味では、複雑な地質構造をもった場所での施工の場合、地質の変化の度に工法を変えていたのでは、いろんな意味での無駄が生じます。そこで開発されてきているのが、硬岩でも泥地でも多目的に使える工法です。それ一台で広くこなせる、いわば、 “万能” トンネル工事機械の開発です。
 トンネル需要のまれなオーストラリアでも、都市での道路や鉄道の地下化は避けられず、その実例も多数でてきています。一方、国際的人材に強みのあるオーストラリアの企業は、そうしたマネジメント力を生かして、近年、急速な需要拡大をみせているアジアでのインフラ整備市場への進出を狙っています。そうしたオージー企業に、多様な技術的対応性を備えさせようという構想でもあります。
 現在、その仲介のための情報交換が始まっているという段階ですが、その実現が期待されています。

 ところがでした。そうして、ようやくこの話が動き始めたところに、12月2日の笹子トンネル事故のニュースが舞い込んできました。当地での最初の報道では、トンネルが崩壊して死傷者がでたとのニュースで、日本のトンネルはさほどに危険と宣伝されているも同然なニュースでした。幸い、事故自体は、トンネル本体の問題ではなく、今のところの情報では、天井部というその二次部材とそのメンテナンスの問題であるようで、そういう意味では、胸をなでおろしているところです。

 (2012年12月7日)


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