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新規起業風景(その4)


春の花輪(その2)



 レストラン開業の準備は着々と進行しています。
 前回に開店の前祝の “花輪” として、手前勝手に借用させてもらうことにしました二編の詩のうちの二つ目を、以下、飾らせていただきます。


  

負けないで
                中井 由実
「何かにつかまっていないと
立っていられないほどの風が吹くかもしれません」
朝のテレビは 嵐をそう予告した
駅前広場の桜が咲いて、何日経った日だったか

少しすぼめた傘を両手で支え
風の方向をさぐりながら
今朝は 広場を突っきって職場に急いだ

気短かな低気圧が過ぎた後の澄んだ夕空
その桜の木は満開のまま
迷いなく立っていた
強風など知らないようなたたずまいの
やわらかな小さな花々
息を呑んで見あげる人に
ひとひら 花びらを落としてよこした
 ― 大丈夫だから ―

どうして 投げ出してしまえるだろう 真っ直ぐに歩いていくことを
傘を持ち、風よけに逃げ込むことのできる人間の
私が


          【おことわり)】 原作は縦書きです。

 ところで、私は前回掲載の詩を読むまで、無知にも、 「いぬのふぐり」 という名の花があることを知りませんでした。
 植物事典でしらべてみると、それはなんとも可憐で清楚な花で、その花言葉は、女性の誠実さ、ということです。いかにもそんな印象の花です。それなのに、
「いぬのふぐり」 とは、なんとも不似合な名をもらったものです。その起こりはその花がつける実の形からきているようですが、だれがそれを命名したものか。それとも、こうした奇抜な命名こそが、日本の自然な風情であり、粋なのでしょうか。

 (2013年5月3日)


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