リタイアメントをめぐる現実は
オーストラリアでも、
リタイアメントがバラ色に理想化されて語られる傾向がありましたが
、ベビーブーマー(団塊世代)の退職が始まり、また政府も年金予算の限界から退職を遅らすよう働きかけており、その現実には厳しい面がにじんできています。以下は、日本の団塊世代ばかりか若い世代にも大いに参考となる、
そうしたリアリティーを扱った
記事の翻訳(一部略)です。
たそがれ時を迎えている世代へ
"You are now entering the twilight zone", 29-30 April 2006, The Australian Financial Review (Weekend edition)
まもなく60歳の誕生日を迎えようとする人たちは、冷えたシャンペンで乾杯を交わしながら、だれしも共通した話題
――
旅行や勉学、スポーツを楽しめる余裕のある仕事へどう移ってゆくか
――
に花を咲かせている。
つまり、ブーマー
世代は、退職ではなく “減職
”
を望んでいるということだ。しかし、それが会社役員職であろうと、プロジェクト職であろうと、コンサルタント職であろうと、また、ボランテイアあるいは名誉職であろうと、その現実は、あるビジネス街のオフィスの机上に象徴されている。
「私の机の上には何千通もの履歴書が積まれています」と、ボードルーム・パートナー社のジェイン・ブリッジは語る。「そのうち、役員の仕事を紹介できるのは、150人に一人です。彼らはみな、極めて有能な候補者ばかりなのですがね。」
ワーキング・コネクション社のグレース・ジョンストンは、「当社は専門職をもった多数の人たちのデータを持っています。彼らは技術者やマーケティング管理職などの経歴をへていますが、今では、芝刈りや、配達便や、リタイアメント・ホームのバスの運転手をしています」、と語る。
還暦パーティーを白けさせる積りはないものの、経験豊富な技師達の期待と、彼らがそうした仕事を離れた時に迎える現実の仕事との間には、おおきな乖離があるのは確かなようだ。
さらに、高齢労働者を生産的な仕事に従事させようとする政府の思惑と、活力の劣った労働力を引き受けようとする企業や組織の意向との間にも、やはりおおきなギャップがある。
今週発表された、ハドソン・リクルートメント・グループによる調査では、60パーセントの雇用主は、高齢労働者を雇用延長したり再雇用したりすることには無関心である。
そうした否定的な声はハワード首相にも届いているようで、彼をして、「高齢労働者が仕事を継続する必要はあるが、彼らは、若い労働者のために、短い時間の仕事をすることを甘受すべきである」、と語らせている。
新下層労働者か
こうした状況を、高齢労働者はあらたな下層労働力にされようとしている、と見るのは、ACTU(オーストラリア労働組合評議会)のグレッグ・コンベット書記長ばかりではない。
ブーマーはこれまで、つねに、あらゆる機会にわたって競争にさらされてきたが、その退職に際しては、そのもっとも過酷なゲームに遭遇している。
それはまた、その生涯においても、もっとも危険な時となっている。その「減職」にはたくさんの落とし穴があるにも拘わらず、リタイアメントをめぐっては、そのルールがまだ明確にされていないからだ。
多くの人たちは、もし退職があまりに遅くなると、専門職界からはじき出されないかと恐れ、また、あまりに早くに退職してしまうと、現在の職を投げ打つことにもなりかねないと心配する。
「もはや、誰がリタイアを望んでいるのか判りません」、と語るのはANZ銀行の役員、シェーン・フリーマン。「彼らは組織から去りたいのでしょうが、どこかよそで働くのでしょう。退職の古い考え方はもはやどこかへ行ってしまいました。」
リタイアメントの考え方を時を追って思い起こすと、10年前、政策通達はブーマーに、リタイアする時に十分な蓄えがないだろうから、長時間働き、貯蓄に励め、と警告していた。
5年前には、人的資源管理の専門家は企業に対し、人手不足が予想されるので、高齢労働者の雇用を維持すべきだ、と提言していた。
昨年では、統計値が、ブーマーはそんなに早くは退職しておらず、むしろ働くことの継続を望み、加えて、10パーセントの人は退職すらも望んでいない、という結果を示していた。
そして今年はやく、首相は、中高年労働者に、経歴のたそがれ時にはあまり多くを望むべきではないと、警告を発した。この発言が意味することは、たとえば、弁護士がバニング金物店 [大手のホームセンター] で土曜出勤することであり、ジョンストンが言うように、かってのマーケテイング部長が芝刈りをすることで、要は、自分の経歴移動の成否は、まさに自分自身の受け止め方にかかっていることであった。。
EPRインターナショナル社のアドバイザー、ラッセル・ジョンソンは、「バニングで土曜の朝に働いたりすることを歓迎する人は多くはない」、という。「彼らは、自分の専門職としての経歴の活用を望んでいるので、役員や、コンサルタントとしての地位を求めているが、それ以外の分野ではない」。また、ジョンソンのかかわるアドバイスの仕事のわずか5パーセントが退職に関するもので、それは、仕事を見つけるという面ではもっとも困難なもの、と指摘する。「時間をかけた退職がもっとも大事だが、それでもうまく行かない場合が多い」とも言う。
ジョンソンはまた、山を下る時は、登る時とは違う筋肉を使うものだと言う。「多くの場合、働き口とは、企業や組織が提供するもので、当人自身によるものではない。そして、組織というものは、それにフルに貢献するものを望むのであって、組織が助けてくれるとは考えるべきではない」、とも言う。
法律事務所のケース
フレキシブルな雇用が注目されているが、企業組織というものは、貴重なスタッフに、より大きな裁量を与えることは望まないものだ。企業組織は、そうしたスタッフに、戻ってきてほしいために、休職や再雇用の機会を与える。ことに新たに親となったスタッフに、そうした雇用条件を提示する。しかし、50過ぎの労働者に、ある組織がそうした条件を提示する理由はさほど多くはない。
選択が豊富な雇用者として知られるある法律事務所は、動きやすさを求める若い人や、フレキシビリティーを求める若い両親、そして「減職」を望む高齢の人たちに、強い魅力を与えている。
その法律事務所、ヘンリー・ディビス・ヨークの人事管理マネジャー、デボラ・ストンリーは、同事務所が小さな子供をかかえた弁護士にフレキシブルな雇用条件を与えたり、また、人生の他の重要事項に取り組みたい総務スタッフに、パートタイムやジョブ・シェアリングを与えている、と言う。「法律というのは、できる人にはどこにあっても可能な分野であるけれど、8パーセントほどの人がフレキシブルな雇用条件をえているにすぎない。しかし、あなたがあなたの職場にどれだけのフレキシブル条件を提示できるのか、それはあなたが決定しなければならない。一体、何人の人がフレキシブルに働けると思いますか?」、と語る。
この事務所は、そうした試みをさらに拡大しようとしている。「当事務所はまた、仕事のリーダー達がどうフレキシブルに働けるかを追求している。というのは、もともと我々のパートナー[法律事務所の共同経営者]は、何らかの形でフレキシブルに働いてきた人たちで、その結果、パートナーまで達している。つまり、こうした働き方を望む多くの人たちからぬきんでてそうなったのであり、彼らの中でも30パーセントしかフレキシブルに働いていないとの現実を見れば、それを志す人はさほど多くはない。」
求人難ではあっても
人手不足の雇用状況も誇張されて語られる傾向がある。中高年の専門職や役員はその仕事を継続できないかと考えているが、そうしたポストは、若い世代からも狙われてもいる。そうした後輩世代は、時に、より高い学歴をもっていたり、様々な職種でいっそう広い経験をもっていたりもする。
雇用主というものは、その高価値の仕事に20歳代や30歳代の雇用を好むものだが、もっとも人手不足が発生している職種は、バニングに代表される末端タイプのものだ。そこで高齢者向けの仕事がないわけではないが、彼らの希望するものではない。
ブリッジは、彼女のもとに毎日届けられる履歴書数以上の人々が、大手企業での週100時間の労働はもうたくさんだとする女性や、もっと若い男性である、と語る。「こうした求職者は、経験も足らず、役職についたことも少ないが、高齢役員たちの好敵手でもある。そうした人たちは、40歳代の半ばか末で、エネルギーに富み、熱心で、時には、役員室に新たな風を引き起こす。決して、『蹴落とす』べき人たちではない。」
ブリッジはさらに、役員ポストは縮小される傾向にあり、加えて、最近では女性や若い世代への門戸も広がっているのであって、ブーマー役員にとって、残された余地は広くはない、と指摘する。
さらに低い職位に目を移すと、ワーキング・コネクション社のジョンストンは、高齢の人は、あまりに遅くになって退職をしようとする、と指摘する。「うまく行くかどうかは、失職中で求職するのか、それとも、『減職』中なのか、のどちらかで分かれる。」 「熟年の人が仕事にもどろうとして、パートタイムの口をみつけるのすら難しいことをさとる。パートタイムの口は多くなく、すでに雇用は満たされている。」
「まだ仕事についている間に、ちがった選択を試してみるべきだ。また、少しでも、訓練やスキル上昇を続けておくのがよい。自分を劣後化させてはいけない。もしあなたが、40代末か50代であるなら、訓練で適したものはなく、自分でやらなくてはならない」、とジョンストンは強調する。
「減職」奨励のケースも
「減職」成功の8っつの秘訣
人脈の維持に努める。
自分の強みの専門を維持し、ことにそれを自活力に役立たせる。
計画は10年前からとりかかる。
計画ができたら、5年前から実施に入る。
ファイナンスやキャリヤ面での専門家の助言を聞く。
あなたの企業が退職近い人たちをどう扱っているかを注視する。
常用雇用されているうちに、現在の雇用主にフレキシブルな雇用形態を働きかける。
政府やNPOの活動にも関心をもつ。
多くの企業組織は高齢労働者の今後の行方を揺さぶっているが、フレキシブル労働の旗手、ANZ銀行は、むし彼らを育成しようとしている。
同銀行では、55歳以上の労働者の40パーセントは、パートタイムで働いている。そうした人たちの多くは窓口業務に就いているが、フレキブルに仕事を離れることができる。
人的資本部長のシェーン・フリーマンは、高齢労働者は、たとえば、半額の給料で長期休暇を延長して取ったりするような、再教育休暇や、人生再考の休暇、あるいは、柔軟にやりくりできるフレキシブル休暇を好んでいる。2005年までの2年間で、55歳以上職員のうちフレキシブル休暇をとった人は、7から13パーセントへと倍増している。そうした結果、2001年以来、退職の年齢が55歳から58歳へと上がった。つまり、こうした現象は、高齢労働者の姿勢が変わったことの反映で、「彼らは30年勤続の会社を去っても別の会社で働き、『減職』しながら、リタイアメントの現金収入としている」、とフリーマンは語る。
ANZ銀行は、高齢労働者が『減職』することに寛容で、それには、彼らががわき道にそれることもOKと自信をもつことが重要であるという。「というのは、企業には、他の企業に『減職』することをいけないことのように捕らえる態度がある。また、それは安易な道と見る向きもあるので、我々は、それはOKなことと、あなたにむいた会社に行きなさいと奨励している」、とフリーマンは語る。
上述の事例は、たそがれ世代の選択にかかわる、いくつかの先駆的試みである。しかし、それが主流ではなく、この道の多くのエキスパートは、それを考えるのに、60歳の誕生日を待ってその機会としようとしているのは、あまりに遅すぎである、と助言している。
(2006.4.30、翻訳、小見出し、訳注: 松崎)
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