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私共和国 第26回
私がそれに全面の信服を置きそれに依拠して充分という程でもないのですが、毎日の自分の生活の拠点をいくつか分散して持つということを、このところにわかに楽しめるようになってきています。
それは、リスクの分散という実用的効用もさることながら、役者が役を演ずる時にも似た、複数の存在を股にかけて生きているというような、贅沢な心境を曲がりなりにも味わえるからです。
むろんそれは、ねらって手に入れたというようなものではなく、必要に応じて選ぶこととなった一つひとつの選択が積み重なって、次第しだいに、そうした多重構造を持つこととなった結果です。いってみれば、それぞれの側面はそれなりの必要をたずさえて登場してきているもので、それぞれの固有の存在感をもっています。他の優をもって置き換えられて足るというものではありません。したがってその当初は、そうした異種なものの組み合わせや、その互いの境界の噛み合いの悪さなどがぎくしゃくして、それを楽しむなどとの心境には到底なれませんでした。
若いころならば、むしろ 「一芸」 にひいでようとある特定の事柄に執着するものですが、むろんそんな時期がないのも困りものですが、そうした一点主義からの卒業、あるいは熟成、それとも引退とでもいうのでしょうか、こうした多彩な味わいの差異を包み込める、ある種のマチュアーな域にやってきています。ただ、率直なところを明かせば、私の若者時代は、むしろその困りものに近く、ひと事に集中しようとすればするほどその凝縮が働かず、三日坊主に振れる自分の習性に、内にこもって劣等意識をひときは抱いていたものでした。そういう意味では、もともと私は、分散型であるのかも知れません。
ここに書いていることは、別掲の 「人生の “多角化” 」 とも関連しているのですが、そうい 「多角化した生き方」 の実生活面上の描写です。
また、先に以下のように書いた、その 「組み合わせ」 という料理に用いる、 “諸食材” についての話です。
- 「 『じか播き』 という方法」
は、ある意味では、手ごわい人生作戦です。一筋縄ではなかなかうまくゆきません。しかし、捉えよう次第では、極めて明瞭かつ単純な方法でもあります。むしろ、盲点のような純朴さを見失わないための方法であるとも言えます。その自らの最適点を発見しそこに到達するために、上記の、優先順序、量的制限、組み合わせ、の三要点を吟味していただいたらどうだろうか、と思う次第です。( 「続-最適配分」 文末より)
思い起こせば、4年前の 「寿司修行」 への取り組みの開始、その3年前の 「リタイアメント オーストラリア」 という自営業の設立、15年前のオージーの友人と共に始めた
「アジア・プロジェクト・パートナーズ」 の事業、そしてもっと遡れば、中年になっての留学生活、日本時代の組合役員の仕事、さらには、20歳代の今で言うフリーター時代、そして最初の就職の建設会社職員時代と、私の
「分散型」 の習性は、明らかな症例がそろってもいます。
留学生時代、よせばいいのにそんな突飛なことを始めた自分に、ある時はそのしんどさのあまり、 「なんで自分はこんなアホなことをやっているのだろう」
と愛想が尽きたり、時には、きっと将来、こうした種まきが、いろんな土壌で芽となって伸びてくるはずだ、と言い聞かせたりしていたものでした。
そうして播いた種が、確かに、少なくともいくつかの面で芽を生やし、たわわな実りとまではゆきませんが、いくらかの実を付けてくれるようにはなってきました。
私は株をやりませんが、株への投資の原則に、ポートフォリオの多様化ということがあります。つまり、投資を一点に集中させるのでなく、リスクを分散させるため、いろんな分野を組み合わせるというテクニックです。そんな技法にも似ています。
ただ私は、そんな目的などあったわけでは決してありません。ただただ結果的に、そうした方式に到達しただけです。
たとえば、そんな実のひとつに、こんなことが挙げられます。
ここのところ、オーストラリアの資源や食糧、インフラ関係へ、日本からの投資が眼に見えて増加しています。それは、日本の経済構造の変化、ことにその規模の停滞から業種によっては縮小が始まって、日本の有力企業が新たな成長先を求めて、海外に転進を始めていることにその背景があります。
「アジア・プロジェクト・パートナーズ」 を始めて間もないころ、日本の建設会社などに、国内市場への過剰依存を脱し国外市場の開拓も射程に入れるようにとアプローチなどしたのですが、その当時ではさっぱり成果は上がりませんでした。それが今日となって、こちらから出向く必要もなく、日本からオーストラリアに進出してくる企業はうなぎ登りで、その投資規模も膨大になってきています。
おかげで、細々と息をつないできた 「アジア・プロジェクト・パートナーズ」 も、ここのところ、客先からの引き合いも増えて、私のところにも、それなりの仕事が回ってきています。週休3日の寿司修行ですが、あまり休みともなならい週が増えてきています。その膨大な投資規模の、ほんのおこぼれでも回ってくれば、私たちのようなマイクロ企業には充分な潤いとなりえるわけです。
昨日、寿司を握っていた生臭いその手で、翌日はPCに向かってキーボードをたたきビジネスレポートを仕上げる、という循環が生じています。ただ、その毎日間の大きなギャップのさ中で、頭の切り替えや、まったく異なる身体の使い方を操るのは、確かに容易ではありません。しかし、この、互いに千里も離れたような世界を股にかけているような生活には、ある爽快感を伴うものがあります。それに加えて、現実的な、リスク分散、あるいは、利得への参加の、均した接触もなし得る結果ともなっています。
かくして、分散主義は、たしかに効果をはたしています。それに、身体も頭も、偏らずに活性化でき、かつ、多様な稼ぎの機会を与えてくれています。
(2010年5月14日)
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