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私共和国 第39回
今回で最終章の第10章の訳読が終わりました。完読です。
この完読に際し、ひとつ、明らかにしておきたいことがあります。それは、この訳読から、予期もしていなかった、実に大きい成果を得たことです。
それは、一つの仕事を終えた――ちょうど年末に間に合って――という達成感と共に、 「ボケ=認知症」 について、ある確かな認識が得られたことです。
ちょっと遠回りとなりますが、この最後の章の訳読をしていて、日本の認知症に関係する諸団体を調べる機会がありました。その結果の印象ですが、日本での認知症の受け止め方には、
「避けられない災難」 を負ってしまった 「被災者意識」 で強く彩られているという感じがしました (自然災害大国日本の国民の傾きやすい習性なのかも知れません)。むろん、一面それは事実ですが、しかしいまやそこに突破口が空けられてきています。老年に向かいつつもまだ健常である者として、それはただ、運とか、ましてや降ってわく災難の問題などではないことが、はっきりと解ったことでした。それは端的に言って、選択の問題であることです。
原著者が言うように、それが100パーセントの結果を保証しているものではないとしても、「50パーセント」 という、極めて大きな確率で予防可能なものであることを知りえたことは、今年最大の収穫です。
しかも、その方法が、私がすでに、この数年間に実行し、その中で自分自身で実感していたこととぴったりと符合するものであったことに、単なる収穫の域を越えて、何か、大きな歓喜のようなものすら見出しています。
そこでなのですが、ということは、 「ボケ」 や 「認知症」 と言われているものは、もはや、 “病気” ではないとさえ言いうることです。
ここから先は、医学的確証付きではない、私の発展仮説にすぎませんが、 「ボケ」 や 「認知症」 とは、ある “反”健康的な――象徴的に言えば
“反”人間的な――生活や精神がゆえの結果でありそうだということです。そして、そういう生き方が無自覚に広く行き渡っている、一連の社会環境の産物ではないか、ということです。
たとえば、昔、私がかかわったことに、過労自殺というものがありました。問題発生の当初、それは見かけ通りの 「自殺」、つまり自分が自分の意志でおこなった行為で、自分で責任を負うべきものでした。ですが、後に――私たちの働きかけの結果――それは、業務上災害と認められ、労働環境によるものとされるようになりました。
私には、 「ボケ」 や 「認知症」 の患者と、その当時に私が接した過労自殺者との両イメージが、3D映画の眼鏡のごとく、あるフィルターを通して見ると重なって映ります。そしてそのフィルターとは、ある人が、無自覚も含め、何々のためにとかそうしなければならないとかと、文字通り、その人の誠心誠意をこめて
「良かれと思って」 やってきたことが、実は、その人の健康や人間性に “反” するもの、つまり一種のトラップであった、という視角です。そうして、方や、過重労働を強いられ、方や、強制してやってくる定年やリタイア生活を自然なこととして受け入れる、ということとなります。
その眼鏡を変えてみましょう。すなわち、労働とは、お金という対価とセットになっていなければならないものなのでしょうか。もちろん、この世のルールとしての正当な対価は前提として、さらに、人間、生きていることとは、何らかの労働をし続けていることと、同じことなのではないでしょうか。むろん、年齢に応じて、その生き方、働き方も変わってゆくでしょう。しかし、それは、お金という線路に乗っている限り、終点はあるし、脱線は不様だし、分岐も外からしかやってこない、ということになります。
たとえば、労働をお金を得るための苦行ととらえ、労働組合などを組織するなどしてそれを規制させ、年金やそれに支えられた退職後生活を編み出してきたのも、近代の資本主義制度がゆえにでした。しかし、そこから、最大、「悠々自適」 という人生終盤の 《浪費》 は導き出せても、その経験と蓄積の最頂点の有効利用は、何らされません。訳読本の著者も、リタイアは 「必要ない」 と言っています。ひねくれた見方と言わないでいただきたいのですが、そうはさせまいと 「悠々自適」 生活が喧伝されているのではないか、と見たくもなるのです。
だとすると、私たちは、 「ボケ」 や 「認知症」 の “予防” どころか、その 「トラップ」 に捕らわれないようにとの、慎重さと賢明さ、が必要となりそうです。むろん、健康でい続けて。
少なくとも、自分が陥りそうになったトラップが、どこにどのように仕組まれていたかくらいは、次の世代に伝えて行けるはずです。
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