HPへ戻る
オージーのリタイア生活模様
退職平均年齢は58歳、仕事継続はわずか3割
オーストラリアでも、国民の高齢化とベビーブーマー (団塊世代) のリタイアメント問題は、やがてやってくる国の重大な課題です。しかし、日本の場合とは当然ながら違いがあります。そのオーストラリアの事情をのぞいてみましょう。
図−1 オーストラリアの高齢化 |
|
まずはじめに、その高齢化問題の深刻度合いですが、オーストラリアの場合、日本より、はるかに遅れてやってくる問題です。
図−1が示すように、年齢65以上の人口は、他の人口グループに比べ顕著に増加するのは確かですが、現在のおよそ280万人(全人口の約14パーセント)が、35年をへた2043年になって約700万人(同約28パーセント)に上昇すると予測されています。
日本の場合、年齢65以上の人口は今年中にすでに20パーセントの割合に達し、10年後の2015年には25パーセントへと上昇すると予測されています。
高齢化問題に関し、日本はオーストラリアのほぼ25年ほど先を行っていると言えます。
また、そのほかの日本との違いとして、オーストラリアでは年齢による雇用差別は違法で(ついでながら性別も)、定年強制退職、つまり年齢を理由とする雇用終了はできません。従って、リストラなど会社都合による解雇以外は、自分の計画にしたがって自主(定年)退職を選ぶことになります。
ただし、転職や昇進のプロセスで、技能が古いとか新訓練に適さないとかとの理由をもって、高齢者が結果的に排除されるのは通例で、「リタイアメント」という言い方は婉曲表現にすぎず、事実上は「不本意な失業」であるとの面もあります。
また、現在の平均退職年齢は58歳ですが、老齢年金の支給は、男性は65歳(女性は少し早い)からしか開始されません。したがって、就労収入の途絶えるこの数年間のギャップを何とかしてうめなくてはならないという事情は、日本と変わりません。
ただ、オージーの傾向として、自宅を含む資産を子供に譲らず、自分の生涯で使い切ってしまうことが多いようで、フルにリタイア生活の資金となっているのでしょう。
ともあれ、最近の大手経済紙の特集記事 (Australian Financial Review 2005年5月26日号) によると、45〜54歳のオージーの大半は、少なくとも60歳になるまでにリタイアしたいと考えています。
同特集記事をもとに、オーストラリアでリタイアメントを迎えるにあたっての5つの課題とされていることを見てみましょう。
第一は、なによりも収入です。
年金基金協会の調査では、オーストラリアでは、リタイア後の夫婦が快適に生活できる年収は、合わせて43,350ドル(約360万円)と見積もっています。この額は、政府の支給する老齢年金、20,160ドル(約165万円)の二倍以上です。
また、リタイアメント生活に必要な資金は、終生で100万ドル(約8,300万円)と見積もられています。
あるファイナンシャル・アドバイザーは、もし、退職後の生活に、退職時収入の60パーセントを自前の積立資金で用意しようとすると、働きはじめた当初から、収入の18パーセントを貯蓄し続ける必要がある、としています。
第二は、リバース・モーゲージの利用です。
リバース・モーゲージとは、所有の自宅を抵当に年金の受給をえる金融契約です。
オーストラリアでは、この方法はまだ、文化風習の問題もあり、広まっているとはいえませんが、当記事によると、5〜6社がこの方式による商品を売り出しています。ことに、夫婦のうちどちらかに先立たれた場合、余生を安泰にする方法として、この商品が推薦されています。
この方式の特徴は、本人が高齢であればあるほど、契約がいっそう容易であることです。
第三は、退職による心理的トラウマをさけることです。
たとえば、「人間関係の大半が仕事がらみのものであった」という発見は、多くの退職者が経験することです。退職後にそなえ、うち解けられる場や友を仕事外に見つけておくことは、大事な課題と指摘しています。
あるいは、退職前に役員職にあった人にとって、退職によりその特権(例えばファーストクラス航空券や社用車)を失うことは、少なくない心理的痛手です。
突然の解雇による不本意な「退職」は言わずもがな、リタイアメントには当然、様々な生活上の変化が伴い、それによる心理的傷害が避けられません。そのため、早くから計画してそれに備え、少なくとも50代に達したら、趣味や仕事以外への関わりを意図的に開発するなど、仕事に置き代わる人生価値を見出すことが必要としています。
第四に、長年継続してきたフルタイムの仕事から、いきなり完全リタイアメントに入らずに、いったんパートタイムの仕事につくことは、そうした変化を和らげる良い方法であると推薦しています。
これは、オーストラリア政府も、高齢者向けの重点政策として取り上げていることでもあり、今の熟練労働者不足を緩和し、将来の年金資金の節減のため、高齢者をより長く、労働人口に引きとめようとする政策です。
図−1にも表されているように、将来、労働人口の増加が期待できる年齢層は、「65歳以上」のみです。ことにそのなかでも、平均寿命のより長い女性がその比重を増してくるはず、と指摘しています。
メルボルン大学経済学部のある調査機関の報告によると、フルタイムからの退職者のうち、73パーセントが完全に仕事を離れ、15パーセントがパートタイムにつき、12パーセントが他のフルタイムの仕事を続けています。
日本では、去る6月9日の厚生労働省の発表によれば、55−69歳の男性の就業率(2004年10月時点)は71.5パーセントです。
日豪間のこうした同じ7対3の比率でも、両国で就業と非就業が逆となっている点は(政府の政策等により、今後、接近が予想されるとは言え)、大いに注目されるべきことでしょう。
また、フルタイムでないとしても、どういう職種に就労可能なのでしょうか。高齢者が排除されやすさを産業別にランキングした図−2が表すように、リタイアした人が比較的働きやすい産業は、一般に、赤色で示す全産業平均より下にランクされている各職種と見ることができるでしょう。
図−2 産業別にみた60歳未満の非自主的退職者の割合
オーストラリアの全就労人口のうち、45−64歳の年齢層は、その32パーセント(2003年)を占めていますが、教育産業における同年齢層の割合は47パーセントと、それを大きく上回っています。
また、2001年、農業に就業する人口のうち、65歳以上の割合は15パーセントで、また、農業就業者の三分の一は女性でした。日本でも、退職者の間に、いわゆるスローライフへの関心が高まっているのも、こうした傾向の同じような現れとも見れます。
教育、農業、対人サービスなどが、退職者のかかわれる可能性の高い職種と、同記事は指摘しています。
ラストはやはり、そのふんだんな時間の過ごし方です。
海外旅行はどの国の退職者にも人気の高い選択のひとつですが、オーストラリアの高齢者に特徴的に関心をもたれている旅行が、二度にわたる大戦に関連する、ヨーロッパの戦跡を訪れる慰霊の旅です。
フランスのある町を訪れると、その学校の校庭に、「オーストラリアを忘れないように」との掲示をみつけることが出来るとのことです。第二次大戦中、その町の解放に身命をささげた豪州兵をたたえるためのものです。
一方、日常的に多くの時間を当てる過ごし方のなかでは、やはり広い意味のスポーツが人気です。65歳以上の人々が行う“スポーツ”の上位3種は、散歩(48.2%)、エアロビクス・フィットネス(11.9%)、そしてローンボーリング(9.3%)です。
さらに、ちょっと高価な過ごし方の趣向として、四輪スクーター(Segway, $8,500)や高級オートバイ(Honda Goldwing, $40,000)、さらにお金に糸目をつけない向きには、ヘリコプター式空中スクーター(AirScooter,
US$50,000)や、果ては、まだ開発途上ながら宇宙旅行などまでが、余暇を楽しむ熟年向け“道具”として紹介されています。
最後に、オーストラリアでは、「海外移住」や「ロングステイ」といわれることに、日本でみられるほど、退職者やその予備軍の広い関心を集めているとの報道は、ここに紹介してきた特集記事もふくめ、あまり見られません。英語圏国民として、もともとそうした活動に障害が少ないこともあるでしょうし、そもそも、退職後をゆったりと雄大にすらすごしてきているオージーにとって、取り立てて取り上げる程のことではないからかもしれません。
(2005.06.17)
暮らし・社会 もくじへ
HPへ戻る