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<連載>  ダブル・フィクションとしての天皇 (第17回)

日本娘の肘鉄

 今回の訳読で第4章の終りにまで達します。原作は江戸末期までの日本封建制の完成までを扱っています。
 バーガミニの面白さのひとつは、日本の歴史の細ごまとした流れはさておいて、彼は西洋人ですから、それなりの西洋についての知識は持っているはずで、その西洋との対比をもとに、日本の歴史の西洋との違いの要所を、分析し出してくれていることです(秀吉を日本のナポレオンとなぞらえているなど独特です)。それを私流の用語で、 「両生眼」 と呼びましょう。
 今回のハイライトは、いよいよ、本格的な西洋との接触が始まり、その強引に迫ってくる西洋との付き合い方において、 「鎖国」 という、止む無い方法をとるに至る、日本の判断のいきさつです。
 それは、喩え話でいえば、東洋のとある美人の娘に、西洋のたくましい男が横恋慕し、結局は肘鉄を食わされる、といった破談の話です。ただし、この娘もなかなかしたたかで、西洋男から、もらいたいものはさんざんにもらっておきながら、でも、一緒にはなりたくないと、そのプロポーズは拒否したことです。こうしてその娘は婚期を見逃し、いったんは、箱入り娘のまま行かず後家となってしまいます。
 16,7年ほど昔、私は、自分の博士号論文で、日本と西洋、ことに英国の、産業組織の歴史的発展を比較していました。その中で、両者は基本的にはほぼ同様な内容の発展過程をへていながら、方やは先に産業革命に到達し、方やはその前夜の時点で、狭くなった地球のもたらす引き合わせ機会にさらされて、衝撃的な出会いに遭遇する、といった議論を練っていました。私はその論文を書いていて、もし、その時、つまり江戸時代末の日本が、あと一世紀か、一世紀半、そのままの独自の発展を許されていたとするなら、日本も産業革命に至っていたのではないかと、どこか残念なめぐり合わせを感じつつ、その論文をまとめていました。
 バーガミニは、今回のくだりの最後で、その彼の 「両生眼」 をもとに、鎖国入りする前は、世界でも筆頭の強国のひとつであった日本が、その閉ざされた数世紀をへたのちに発見したのは、世界の二流国になり下がった自身であったと書いています。
 日本という国は、そういう大振れを体験しつつ、やがて近代に目覚まされるわけですが、ともあれ、そうした日本娘の心意気をとくと感じさせられる今回です。

 では、今回の訳読へとご案内いたしましょう。。
 

 (2010年2月13日)


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