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<連載> ダブル・フィクションとしての天皇 (第97回)
驚かされた発見
いよいよの 「エピローグ」 です。そして今回はその前半です。
私はこれまで、本書を訳読して来ながら、一方には強い予想と期待を置いてきましたが、他方では、ある種の予断――どうしても、自国についてはある “甘さ”
は伴うのではないかと――を置いて、さほどな期待はしていない、予防線を張っているところがありました。ところが、その予断が、少なくともある点において、裏切られそうです。
で、その予断を裏切るものとは――――、著者バーガミニによる、彼の自国アメリカに対する、実に厳しい見方です。
私はすでに何回かそう表現してきたのですが、バーガミニの記述には、日、米、両国へのバランスのとれた視点が貫かれています。その、バランスのとれ具合が、並みではありません。そう、その厳しさにおいて、両国への切れが、驚くほどに鋭いのです。
ことに読者におかれては、今回の前半の、山下大将への死刑判決の不当さを指摘している部分 〔マレーの虎の絞首刑〕 に注目していただきたいと思います。私はこの部分を読んで、なぜ、著者のバーガミニが本書の出版を理由に、米国社会でさほどに冷酷な扱いを受けたのか、その理由のその
“度合い” を発見したかの思いがしています。
すなわち、それは、山下判決のもつ米国法体系上の論理の逸脱、あるいは自己矛盾、ひらたく言えば、 “面汚し” な所を、手心をくわえず、それこそ
「バランスよく」 えぐり出したことです。日本人には、余りそうした論理的一貫性を重視しない性癖があります (山下自身もその点では、 「自分は全力を尽くした」
との、いかにも “日本人的” 弁論を行って、焦点を外しています) 。しかしアメリカは、約束事が支配する国です。法治国の世界の盟主たる旗をかざしている国です。そういう国が、戦争騒ぎのなかであれ、こうした重大な自己矛盾を残しているとの指摘は、おそらく、国の面子にかけて、認められないところであるはずです。
しかも、こうした一連の戦犯裁判は、 《米国の正義》 を、日本の占領政策のみならず、戦後の世界覇権を構築する主柱とするための大々的宣伝装置です。そうした大義を、一人の日本びいきな著述家なんぞに、
“絶対に” 台無しにされてなぞはならなかったのです。
先に書いた、 第77回 隠された新聞記事 も、なぜそう隠さなければならいのか、それが今、こうしたワケがゆえのアメリカ社会の仕打ちなのかと、ことさらに納得させられるものがあります。
ちなみに、その山下の死刑判決は、 「真珠湾の4周年記念日」 の1945年12月7日にくだされた、という念の入れようです。
今回の訳読のほぼ終わりの 「東京裁判の結果」 の節の末尾に、以下のようなくだりがあります。神奈川県熱海の山腹に立つ、興亜観音について触れた部分です。
- そうした参拝者にとって、その山腹の神社の霊魂は、受難者のものではなく、名誉の者のそれである。日本と天皇は、彼らに負うものがあると受止めている。彼らは、アメリカ人の善かれとする意図を満たすために死んだ。彼らの恨みは晴らされるべきではあるが、善意に報復を加えるのは可能でない。だが、彼らの近親者たちは、黄泉の世界の戦犯たちに、神風精神の熱狂が忘れられ、武士道は滅び、そしてここ当面、日本は平身低頭して道化を演じなければならないのだと、告白しているのである。
この観音像について、少なくともこの本に著されているまでの知識をもった、アメリカ人はまったく論外としても、日本人においてすら、いったいどれほどの数の人がいるでしょうか。それには私も含まれたのですが、そうした無知な日本人に、こうした知識を、しかも、断片的なそれでなく、数世紀に渡る日本の歴史をふくむ、膨大な歴史的、同時代的検証をへて語れる人はどれほどいるでしょうか。そういう貴重な仕事を、本書の著者バーガミニは果たしてくれているのです。
先にも言いましたが、本書は、日本の出版界では、 “ゲテモノ本” 扱いです。また、日本の保守的な人たちからは、 “毒物” 扱いさえされている本です。
しかし、たとえば上に引用した部分を注意深く読むだけでも、そうした扱いが、いかに皮相的で、誤りに満ちたものであるかを教えてくれています。
加えて、これは私の便乗ですが、上の引用の最後の、 「日本が演じた道化」 の中には、たとえば、日本が戦後、米国から “導入” した、原子力発電政策があるわけです。そうですよね、中曽根さん。
それででは、「新たな衣服」(その1) 」 へご案内いたします。
(2013年8月21日)
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