「資本家化するオージー
ハワード首相率いる、9年間にわたる自由・国民連立政権のもとで、オーストラリア経済は好調を維持してきました。そのもとで、国民の収入も順調に伸びてきましたが、その伸び方は一様でなく、恩恵の行き渡り方には濃淡が生じています。

5月21日付けオーストラリアン・ファイナンシャル・リビュー紙は、「今やわれらみな資本家」と題して、オージーの収入構造の変化を分析しています。この記事のデータをおもに拝借しながら、当サイトなりの見方を述べてみます。

まず、 図−1 が示すように、1996年11月のハワード政権発足以来、平均週給(本年2月現在785ドル、約64,000円)の伸びは、消費者物価の伸びを大きく上回っており、96年3月を100とした指標で、およそ2倍の開きがでています。

 図−1  平均週給と消費者物価の伸び   図−2 職種別賃金の伸び率(97年9月〜04年12月)


次に、こうした収入の伸びを職種別にみると(図−2)、管理職や専門職などの高給の上級ホワイトカラー職が大きく伸びている一方で、低給の単純労働、生産・運輸労働者のブルーカラー職のほか、ホワイトカラーでも各級事務職では、その伸び率は平均を下回っています。つまり、収入の絶対額の開きは拡大しています。

ただ、職人などの技能職の伸びは他のブルーカラー職を顕著にうわまわっています。こうした技能職は、労働組合の影響の最も強い分野でもあり、その結果と見られます。

こうした収入状況の変化の結果、 図−3 が示すように、平均週給以下の階層の構成割合がいくらか減って、それが平均週給の100%〜150%の階層で増えており、中産階級層の拡大が見られます。また、最も高い階層の割合も増加しています。

   図−3  収入階層別構成の変化      図−4  企業収入中の賃金と利益の割合の変化


他方、企業収入における賃金と利益の割合の変化を見ると、 図−4 が示すように、賃金が占める割合は下降傾向にあり、一方、利益率は、ことに2001年以降、目に見えて上昇してきました。

また、近年、労働の形態は多様化しており(図−5)、独立契約業者()や派遣労働者が増加しています。ことに前者の増加は、被雇用者と事業主の区別をつきにくくさせています。


() 図−5の出所は不明ですが、98年より、それまでの「自営事業主」の分類が拡大され、「独立契約業者」をふくめてそう呼称されている模様

  図−5  多様化する労働力構成         図−6  増加する株主と減少する労働組合員
 
図−5には示されていませんが、常用のブルーカラー職は減少しており、その反映として、図−6 が示すように、労働組合に属する労働者数は、長期の減少傾向を示しています。その一方、株式保有者はこの間でほぼ倍増し、その絶対数は労働組合員数の二倍近くにもなっています。

以上のように、オーストラリア社会は、かって「労働者天国」といわれたような状況は薄れ、ミドルクラスと分類される階層が増加する一方、自営事業者・独立契約業者も増え、働き手の個人営業化がすすんでいます。そして、貯蓄より投資に精をだす、国民の「資本家化」とも称せる現象が進んでいます。また、低技能労働者層が比較的低所得のままに分化し、固定化しつつある現象もうかがえます。

こうしたオーストラリアの現象は、日本との対比において、ことに株式保有者の増加という面では、日本の変化に先行しているといえます。

(2005.5.22)

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