年末総選挙、政権交代の可能性濃厚
オーストラリア政治史上二番目の長期政権を誇り、そのしたたかな政治手腕とともに運のよさでも定評をはくしてきたハワード首相にも、ここのところ、そうした長所にもギクシャクが目立ちはじめ、今年末の総選挙をにらんで、ついにその政治生命も尽きるのか、との観測が目立つようになってきています。
昨年末の労働党議員総会で、新たな党首としてケビン ・ ラッド氏が選出されて以来、新労働党の人気は目覚しいものを見せ、最近でも、世論調査は、「労働党政府を支持する」が、「自由・国民連合政府を支持する」を、22パーセント・ポイントも上回り、もし今、選挙が実施されれば、労働党が政権を奪回するのはほぼ確実な情勢となっています。
写真は、国会で答弁するラッド労働党首(右)とジラード副党首(左) (AFR紙より)
ハワード首相にしてみれば、経済は絶好調で、失業率は記録的低さを維持する事実上の完全雇用状態を示し、賃金もそれがインフレ圧力として懸念されるほど根強い上昇基調にありながら、国民がなぜ、急に彼に背を向け始めたのか、けげんに思えていることでしょう。
ほかに大した理由はなくとも、長期政権に「飽き」を示すオーストラリアの国民性があるのは事実としても、目下、オーストラリア国民の関心を集めているのは、イラク戦争、異常気象、労使関係、の三つの問題で、いずれも、ハワード首相にとって、その命取りともなりかねない、重要課題となりつつまります。
第一の「イラク戦争」については、「ブッシュのペット」とまで言われながらも、米国のイラク派兵に全面的支持を示し、同盟国としての責任を果たしてきたオーストラリアですが、そのアメリカでもイラクからの撤退議論が起こり、また、オーストラリアでも参戦反対が7割にも達している中、ハワード首相は、逆に、派兵増員を発表し、イラク戦へのかかわりに固執しています。
第二の「異常気象」問題では、石炭はオーストラリアの輸出品の中で第一位を占める最重要産品で、そうした産業構造をアピールし、京都議定書締結にあたっても、他の先進国がCO2減少目標を約束するなか、オーストラリアのみが増加を主張してそれを認めさせるなど、ハワード政府は、全般に、環境問題での取り組みには極めて保守的な姿勢をみせてきました。それが、旱魃の深刻さや水資源不足問題、異常に発達したサイクロンの被害などから、異常気象への取り組みが避けられない中、「雇用確保と世界経済での競争力維持」をかかげ産業重視の姿勢をつらぬく現政府は、一種の政策的ジレンマに陥りつつあります。
第三の「労使関係」については、ちょうど一年前、それまでの労使関係法を全面的に改定し、使用者の権限を大きく広める、「ワークチョイス」と呼称する政策を導入しました。それから一年、一方で、労働組合が、労働者の権利を奪い、家庭生活を破壊に導くもの、と反対キャンペーンを続ける中、雇用もふんだんにあり、賃金も上昇する情勢下でも、それを不満とする見方が広がっています。世論調査でも、「使用者側の力が強くなりすぎ」との意見が6割にも達しています。
労働党新党首となったラッド氏は、イラクからの早期撤退をかかげ、CO2規制についても、2050年までに60パーセント削減という長期目標をかかげ、さらに、労使関係法についても、労働者の権利を復権させる政策を再導入するというように、ハワード政権にまっこうからチャレンジする方針を示しています。
ラッド氏は、影の外務大臣を務めてきているほか、アジア関係学の中国関係の学位をもち、北京語を流暢に話す中国専門家でもあり、対中国政策についても、これまでのハワード政権による、経済的には友好的だが政治的には警戒的な姿勢を、政治的にも、より友好的な姿勢に転換する構えです。
3月24日に行われたNSW州総選挙においても、州民は労働党政府の継続を圧倒的な多数で選択し、現労働党政府の数々の失政が指摘されていながらも、ことに、新労使関係法システムへの不満が、その結果に反映したのではないか、と観測されています。
今年末、もし、このラッド氏の率いる労働党が政権を奪還した場合、オーストラリア社会のみならず、日本にとっても、少なからぬ波紋をもたらす変化となることは疑いありません。
(2007.3.31)
政治・経済 もくじへ
HPへ戻る