鉄鉱石をめぐる国際的駆け引き
 英国 - オーストラリア系の世界最大の資源会社BHPビリトンは今年初め、同じ英オーストラリア系の資源大手リオ・ティントを1474億ドル(約15兆7000億円)で買収する計画を発表しました。この統合が実現すれば史上2番目、オーストラリアでは最大の買収規模で、鉄鉱石で約40%の世界シェアを握る巨大企業が誕生することになります。
 現在のところ、買収される側のリオ・ティントがこの動きに反発しており、たくみな駆け引きが繰り返されています。先日の報道では、BHPビリトンの重役の一人がリオ・ティントの経営者を、買収提案の真意の解らぬ「怪しい経済学」の持ち主と揶揄したとの記事も見られます。
 近年、資源関係産品は売り手市場となっており、前回にお知らせした石炭価格の高騰と同じく、鉄鉱石もうなぎ登りの高騰を見せています。こうした状況は、中国を代表とする旺盛な買い手が現れていることも原因ですが、生産者側でも、これまでに大規模な統合を繰り返し、鉄鉱石では、BHPビリトン、リオ・ティント、そしてブラジルのヴァーレの三社で、世界のシェアの7割をにぎるという寡占状態が出現しているためです。
 
この歴史的な統合をもくろんでいるBHPビリトンも、もとは、オーストラリア最大の資源企業のBHPと英国のビリトンが戦略的な合併を行って誕生した企業です。
 
日本や中国などの鉄鋼大手などが「寡占化で健全な価格決定メカニズムが機能しなくなる」と、この統合計画に反対しています。先に、中国国有の中国アルミ業公司(Chinalco)がアメリカのアルコアと共同で、リオ・ティントの株式の12パーセントを取得したのも、この統合計画を妨害する意図と見られています。
 思い起こせば80年代から90年代初めにかけて、日本の鉄鋼企業は団結して、当時、数社もあったオーストラリアの資源企業の足並みの乱れを利用し、買い手優位の売買交渉を続けていました。当時のオーストラリアの新聞記事に、分裂状態の豪州資源企業の状態を嘆くものがよくありました。
 いま、数倍に跳ね上がった資源産品の価格により、製造業主力の国から資源産出国へと、富の移動が生じています。
 日本と中国という製造業中心の国同士が、政治的に反目していたのでは、こうした資源国の思惑に牛耳られるのも当たり前です。
 昨年11月の豪州総選挙の結果、あらたに政権についたラッド労働党首相が、中国には熱心なそぶりを見せつつ日本にそっけないのも、日中両国間の溝を、少なくとも修復の仲介に立つ積りは、さらさらないからではないでしょうか。


(2008.4.30)


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