労使対立、熱い季節に突入か
オーストラリアは、これから寒い季節へと向かいます。しかし、その産業界では労使の対立・紛争が相次ぎ、逆に熱い季節に向かっているかの様相です。

本サイトでは前号で、BHPビリトンと三菱によるBMA共同企業体での労使紛争を契機に、その中の一つの炭鉱の閉鎖に発展したとのニュースを掲載しました。

これに続き、トヨタ・オーストラリア社では、一月に発表した350人の人員削減――総従業員の約一割に当たる――に関し、4月16日、いよいよその対象者が発表されて実施段階に入ったことから、これまた新たな紛争の火種になろうとしています。

このサイトでは、日本企業関連のケースのみを取り上げますが、他に、大規模なものでは、港湾荷役関連でも熱い紛争が起こっています。

そこでそのトヨタ・オーストラリア社のケースですが、会社側は、その解雇対象者の選別は合理的な基準 (別記事参照) によるもので合法性を強調しています。他方、組合側は、その対象者に組合活動家や労災による休業や就業制限者が多く含まれており、現行の労使関係法 (Fair Work Act) が禁じる 「不利益扱い」 条項に当たるとして、同社を告訴する構えです。

現在のところ、水面上で交わされているのは以上のような論争なのですが、水面下では、一種の時代の変化――トヨタ式生産方式の変わり目――を思わせるような、底深い問題点が指摘され始めています。

そのひとつは、同社はこれまで長く、労使間対立を避けた対話を深める形の労使関係を築いてきており、しかも、2008年の金融危機不況の時でも、人員削減の手段はとってきませんでした。

それが今回、世界のほかの国のトヨタでは、通常、希望退職を募集して削減に当たるのが通例なのに、オーストラリアではそうされず、そういう意味では異例の方式が採用されている、との指摘です。

また、強制解雇を実施する場合でも、オーストラリアで一般的な解雇の方法は、客観的な、勤続期間の短い者から順に対象とする (last-on, first-off rule) とか、日ごろからの警告や対話の機会を潜在対象者にプライベートに与えて(突然の通告とならぬよう)、その結果で実施される、とかとの策も採用されなかったことです。

さらに、トヨタ側は、解雇者の選別基準の中に、 「トヨタ方式 (Toyota Way)」 の理解や実践をあげています。 「トヨタ方式」 は確かに、世界の自動車産業のみならず、あらゆる製造業や一部のサービス業にも影響をあたえてきた画期的な生産方式でしたが、これまでのその実績や自負が、今回のような異例の対処の背景となっているのではとの解釈です。解雇発表の後、同社の社長はこう言っています。 「当社に残る者は、当社の方向とToyota Way が何たるものかを理解している者である、ということを明確にしておきたい。」

しかし、豪ドル高や円高が、その 「トヨタ方式」 の理解や実践を越え、きわめて別な次元で進行しているとするなら、今回のような特異な選別方法の実施は、かえって奇異な感覚を呼び起こし、むしろ避けられたかも知れない問題を作り出しているのではないか、というのが現地での指摘です。

世界の先進各国で、雇用状況の悪化が広がっている中、これまでオーストラリアの労働者は例外的に良好な雇用条件をえてきました。そうした経過があるだけに、同国への世界的傾向の波及は、その労使関係状況に穏やかでない季節をもたらし始めています。

 資料出所: 2 February, 17 & 18 April 2012, Australian Financial Review.

 (2012.4.21)
 

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