大きな変わり目
昨年十月の総選挙で、オーストラリアは日本に先立って、国会の上下二院で政府与党が多数をにぎり、議席数上では、いわば「何でもが可決可能」な情勢となりました。そうした政治環境のなかで、今、その労使関係制度に、「歴史的」とも言っていい、抜本的改革がもたらされようとしています。
この改革は、広くは、社会福祉、税、産業政策にも関連する大規模なもので、ひとことでは表わしにくいのですが、その眼目は、労働者への保護を弱め、使用者の経営権を拡大するものです。ことに、労働組合との交渉が足かせとなってきた労働条件決定に、まず、労働組合の力を抑えるとともに、労使契約を、団体的なものから、個別的なものへと改める、制度改正が法案化されています。
ハワード自由・国民連立政府は、こうした法改正の目的を、オーストラリア経済の国際競争力を高めるためとし、従来の労働者の権利の保護を緩め、結果的に、賃金と労働条件の引き下げ、あるいは、その上昇の抑制により、それを達成しようとしています。
オーストラリア経済は、過去ほぼ15年間、大きな陰りのない順調な成長を示し、国民もその恩恵を受けてきました。そうした経済運営への信頼感が、昨年の選挙の政府への大きな支持へと結びつきました。(巧みな選挙戦術もあったとの指摘もあり、その辺の詳細は、既述記事を参照してください)。
そうして裕福化したオージー社会のその結果にやってきたこうした政策に、今、オーストラリア社会は、その改革導入の賛否をめぐって、国をあげての論争がおこっています。ことに、普段、この種の論争には距離を置く教会各派も、この導入の結果の家族生活や弱者への影響を懸念し、憂慮の念を表しています。
「順調な経済の時に、なぜ、あえてチェンジが必要なのか」、との意見には、政府は、「今何もしないでいると、将来が大変になる」といい、「こうした改正は職場のボスの力を強くし、働きにくくなる」、との声には、「ネガティブな見方にくみせず、前向きでインテリジェントな議論を」、と反論し、また、「こうした改正が首切りを容易にする」、との不安には、「改正の結果による生産性の向上により、より多くの仕事が生まれるから安心しろ」、となだめます。
ことに、この一連の改革の標的となっているのは労働組合で、これらの法案が通れば、その活動は、ほぼ骨抜き同然状態となります。当然、組織をかけてその反対運動に全力をあげています。
政府の予定では、十二月上旬で国会を通過させ、来年から導入するつもりです。
世論調査(Age紙)では、こうした改革には、ほぼ6割の人々が不満足(下図の右下)としており、また、下のグラフが示すように、政府への支持率(Coalition、青線)は、昨年末の高い率から、今年は最近までは拮抗状態が続いてきましたが、11月の最新調査結果では、野党労働党(ALP、赤線)が大きく支持を回復し、明瞭な逆転現象が生じています。
政府は、そうした不利状況も、法案さえ通してしまえば、すぐにクリスマス休暇に入り、ほぼ一ヶ月の事実上の休眠状態になるとの読みですが、さて、そうしたシナリオ通りにゆきますものかどうか、ゆくえが注目されます。
資料出所 : The Age, 23 November 2005.
(2005.11.27)
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