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熱力業風景
(その10)


政治、環境、人々


 ちょうど4年前の2008年7月末、本サイトは、イクシス・プロジェクトの陸上プラント建設予定地について、海上ガス田からもっとも近いキンバリー地区のマレット島とするか、それとも、長距離のパイプラインを敷いてダーウィンとするか、それが未決定であるとのニュースを掲載しました。そして、もし、マレット島と決定すると、同地がアボリジニーの遺跡や貴重な海洋生物の生息地として知られるだけに、環境上の問題が懸念されることが予想されていると伝えました。
 一方、イクシス・プロジェクトと並ぶほぼ同様規模の後続事業、ウッドサイド・ペトロリアム社のブラウズLNGプロジェクトをめぐり、その地上プラントおよび輸出基地建設予定地であるキンバリー地区のジェームス・プライス・ポイント(下図参照)について、同様な環境問題が懸念され、その論争がしだいに規模を拡大してきています。
 8月3日の報道によると、日本の調査捕鯨への過激な反対行動で知られるシー・シェパードのキャンペーン船がキンバリーの町、ブルームに到着し、オーストラリアのグリーン党の元代表、ブラウン博士もそれに合流して、今後、国際メディアにアピールするなど、反対運動の強化が計画されています。
 この先、もしこのキャンペーンが功を奏していった場合、それが主張する、建設場所を洋上プラントか、または、はるか南のカラーサに変更するかどうかの議論の再燃は避けられず、ウッドサイド社の既存の判断をめぐり、同社の評判やその事業に、決定的なダメージと実害がおよぶ恐れも指摘されはじめています。
 イクシス・プロジェクトの場合、本サイトがその後に報じたニュースのように、オーストラリアの州政府間の政治駆け引きに巧みに乗じて、2008年9月末に、その地上プラント建設地をダーウィンに正式決定し、政治的に有利な条件を獲得したばかりでなく、環境問題論争に巻き込まれることからの回避に成功しました。
 もしその時、地理的有利さを優先させ、マレット島に固執していた場合、環境評価に時間を費やされるばかりでなく、近接する上記のジェームス・プライス・ポイントへの反対活動とも関連して、その遅延は泥沼化し、おそらく、現在でも着工ができないとの、事業の死活にも関わる深刻な問題に巻き込まれていた場合すらありえたでしょう。
 日本もかつて、その産業規模拡大の潮流の中で、深刻な環境問題を経験しました。オーストラリアの産業の場合、その規模は膨大で、今後の論争の拡大は避けられないでしょう。
 かくして、イクシス・プロジェクトの場合、その政治、環境の関門は、なんとか突破してきたものの、その工事が始まり、今後、数千人もの人々がそれに関わりはじめて、いよいよ、「人」 という、当たり前ながら、一筋縄ではゆかぬ問題に取り組む段階になっています。



 (2012年8月3日)

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