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<連載>  ダブル・フィクションとしての天皇 (第42回)


「大兄」 とは誰


 この 「訳読」 の読者には、その中で度々使われている 「大兄」 という訳語にとまどわれている方も少なくないと思います。この言葉は、単なる形容語ではない重要な “名詞” ですので、あらためてここに説明を入れておきます。
 たとえば、第7章 「平和と狂気」 の節の中ごろに、 「彼らは自分の小さい時に親しくしていた大兄たち――今後のほとんどの陰謀の実行者となる――であった」 という表現があります。原著者バーガミニにとって、 「大兄」 は見逃してはならない舞台背後の重要人物たちなのです。

 つまり、原著者は、この名詞――原文では 「Big Brothers」 ――を、彼の見解を組み立てる基軸用語のひとつとして用いています。

 天皇裕仁がまだ幼少であったころ、彼のおさななじみとか交友関係というような間柄にあったのが、彼のやや年上世代の血縁・親交者でした。年長順にその名をあげると、
 
 バーガミニは、第6章 「未熟児」 の節の末に、こう書いている。
 このようにまとめて一望すると、天皇裕仁の深謀の背後には、これらの 「大兄」 たちの深謀があり、さらにその奥には、どうやら、木戸幸一の深謀――前回のゴルフの話に見たように、1930年の夏、木戸幸一は裕仁の侍従長となり、後に、内大臣となって、裕仁を支える “化身” となってゆく――があったことが浮かび上がってきます。
 そう見ると、木戸の養父は木戸後胤であり、彼は、西郷、大久保とならぶ 「明治維新の三傑」 のひとりです。つまり、明治以来の日本支配者たちの思いがその底流としてそう働いているはずです。
 
 そうした根底意思の表れとも見れるのですが、今回で、ライオン宰相浜口が右翼の凶弾に倒れます。

 かくして今回で第10章が終わり、舞台はいよいよきな臭い1931年へと移ってゆきます。


 では、いつものように、 「訳読」にご案内いたします。

 (2011年3月21日、23日一部修正)


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