命運を分けた環境問題 : イクシスとブラウズ
オーストラリア大陸の北西角の超過疎地帯、西オーストラリア州キンバリー地方の沖合、300〜400kmに存在するガス田、ブラウズ・ベイスンにおいて、二つのプロジェクトが計画されてきました。
一つは日本のエネルギー資源会社、インペックス社が主導するイクシス・プロジェクト。もう一つが、オーストラリアの石油資源会社、ウッドサイド社が主導するブラウズ・プロジェクトです。両プロジェクトとも、2000年のガス田発見以来、ほとんど同時にその計画に着手され、実現が追究されてきたものです。
これら二つのガス田は、互いに100〜200kmほどしか離れていない隣接するガス田です。その “兄弟” プロジェクトが、いま、事業の明暗を分ける、対照的な経緯をたどっています。
というのは、さる4月14日、ウッドサイト社が、その400億(4兆円)超米ドルのブラウズPJ計画を、ひとまず棚上げすることを発表しました。その一方、イクシスPJは、昨年1月にその340億米ドル事業の正式着工を決定し、2016年末の出荷開始に向けて、順調に工事を進めています。
もともとこの両プロジェクトは、沖合で産出したガスを海底パイプラインで地上プラントに運び、そこで液化し、出荷するもので、当初計画では、共にキンバリー地区に双方のプラントを建設する予定でした。ところが、その地上プラントをめぐり、環境問題をめぐる強い反対運動がおこり、さらに、現在オーストラリアには、進行中だけでも7件の大型LNG(液化天然ガス)関連プロジェクトが殺到していて、資材価格や人件費を高騰させ、いずれのプロジェクト計画にも、深刻なコスト・プレッシャーとなっています。
こうした環境・経済の両問題に対し、イクシスPJは早いうちに、海底パイプラインの延長は約900?と三倍以上となるものの、北オーストラリア準州首都のダーウィンにその地上プラントを建設する方針へと変更し、環境問題の発生リスクを回避しました。ダーウィンには、すでに既設の類似プラントもあり、反対運動の可能性は薄く、地元政府の誘致も強く働いて、計画、認可、そして実施決定までのプロセスも、最もスムーズに行われてきました (「2.6兆円プロジェクトが始動」、「イクシスPJ、NTに地上基地」、「イクシスPJ,NT行き濃厚か」、「
国際石油開発、イクシスPJの行方」
参照)。
ブラウズPJの場合は、環境問題の絡みで、政府認可に時間を要し、遅れた分だけコスト上昇の影響も大きく、当初の予算を大幅に上回る事態に至りました。また、たとえば同プロジェクトのパートナーの一社、シェルは、環境問題を避けるため、洋上に設置するフローティング・プラントを望んでいたようですが、州政府は、地元産業育成と雇用創出から、地上プラントを強く奨励してきました。
ブラウズPJが地上プラントの候補地とする地は、アボリジニーの遺跡やその沖合は鯨の子育て海域として知られ、著名なミュージシャンやビジネスマン、そして、昨年からは日本の捕鯨への過激な反対行動で知られる環境団体、「シーシェパード」
も加わって、根強い反対運動が繰り広げられてきました。
こうして、いったん白紙に戻されたブラウズPJに関しては、今後、三つの代案が予想されています。一つは、地上プラントを遥か南方の既設施設のあるピルバラ地区へと変える案(この場合、長距離の海底パイプラインが必要)、第二は、上記の海上に設置する浮きプラント案、そして、現在の候補地でのプラント規模を縮小するとの三案です。
いずれにせよ、今回のこの棚上げ決定は、過熱状況を示すオーストラリアのLNG産業の行方をめぐり、その分岐点に達していること意味していることは間違いありません。すでにオーストラリアは、豊富な資源埋蔵量とは別に、その建設コストがあまりに高価となっており、生産地として、国際的競争力を失ってきているというものです。
なお、ブラウスPJには、日本の三菱商事と三井物産の連合体が、14.7パーセントの持ち分を所有して参加しています。ちなみに、その他参加企業は、ウッドサイドが31.3パーセント、シェルが26.6パーセント、BPが17.2パーセント、そしてペトロチャイナが10.2パーセントです。
報道によれば、今後の見通しにつき、三井の担当者は、同社はまだ、どの案を押すかは決めていないとのことです。
資料出所: 13, 16, and 20 April 2013, Australian Financial Review.
(2013.4.21)
資源・産業 もくじへ
HPへ戻る