70代も末くらいの年齢になると、酒場で飲み合うという機会もうすれ、そもそも、酒自体が体に重たくなってきている。そういう向きには、本シリーズのタイトル「話の居酒屋」も、必ずしも居酒屋での話とする必要はなくなっている。そこで、気の利いたレストランに席をとり、混みあう時間帯を外してゆっくり食事をしながら、落ち着いた話を交わすのも悪くない趣向だ。ともあれ、そんな遣り取りである。
A 昔、若い時分、人のタイプには「昼型」「夜型」って違いがあって、自分がどちらかって結構はっきりしてたよね。
B 俺なんかは「夜型」で、ラジオの深夜放送を聞きながら何かをやってる、いわゆる深夜族だった。
A そうそう。でもね、夜ってのはどこか危なくなかったか。たとえば、思い込んでしまえばどこまでも行っちゃう。そして、夜にしたためた文章などは、翌日、昼間の明るみで読み直してみると、妙に感情的に入れ込んでいて、そのままじゃちょっと使えず、書き直したなんてこともよくあった。
B そう、それが誰かに宛てた手紙の時なんかは特にだね。
A ことに相手が異性だったりすると、もうその文面があたかもラブレターめいたりしてきて、「大丈夫かよ」って心配したもんだ。
B けっこう、そのまま出したりして。まあ、そんな成り行き任せな分かれ目にも突っ込んで行って、それで道が決まっていったなんてところはあったね。
A 「若気の至り」ってとこかな。ともあれ、それやこれやで、歳をくってきた。
B ところで、その「昼型」「夜型」が、どうかしたのか。
A まあ、そんな「昼型」や「夜型」の時期があったと思い出しているんだが、このごろ、そうした二役が復活してるんだよ。
B いまさらかい? 俺が深夜族であったころは、もちろん二十代も早い頃で独身の時だよ。それが、仕事に就き、その責務を負ったり、まして結婚して家族ができようものなら、もう、完璧に昼型人間に成り切っていったね。
A 言ってみれば、現役時代ってのは、まさに人生の昼間の時期。夜のお遊びの時間はあったにせよ、それはほんの息抜き程度。
B そうやって、楽しみは後回しにして、なんとかリタイアの時期までやってきたというわけさ。
A そこでその復活なんだが、こうして現役から退いたいまごろになって、にわかに夜型発見にいたってるのさ。
B 俺なんか、夜に頻繁に目が覚めさされるよ。そしてトイレ行き。
A そういう事情もあるが、俺の場合、リタイアしてようやくにしてやってきた、その「夜型」との再会なんだ。そうだな、現役中の昼型人間ってのは、夜型人間が眠らされていた時代でもあったって感じだ。
B 引退したとたんに認知症になるなんてのが、よくある話だが。そんなボケ話か?
A まあ、現役中に働き過ぎ、ほとんど燃え尽きて退職となれば、それも当然な至り着きだろう。ただ、俺の場合むしろ逆を行っていて、現役中、燃え尽きるほどな仕事には恵まれず、ある意味で白けて過ごしていた。そして内心、リタイアの時が来るのを楽しみに待っていた。
B その分、健康を損なわずになんとか保ってきて、元気にリタイア生活を迎えているってわけか。
A そこで発見している、いうなれば、今さらになって“夜に花咲く”自分なのさ。
B ほおー、それはめでたいことだが、そもそも年食えば、そうでなくとも睡眠を妨げられがちなんだから、夜はしっかり寝たほうがいいって話もあるぞ。
A まあ、睡眠時間を削ることは問題だろう。でもね、俺のは、昼間の時間には、それこそ家事だの運動だのにって、けっこう忙しい。だから、その疲れもあって、夜はすぐに眠くなる。だから、いったん早めにベッドに入って、夜中に起き出すんだよ。するとね、頭がすっきりと冴えていて、それこそ、昔の深夜族顔負けの意欲が湧くってわけさ。それで二、三時間もすればさすがに頭も疲れてきて、再度、眠りに着けるってわけ。まあ、一日7、8時間ほどの睡眠を、二度に分けてとっているってことかな。
B なるほどね。大体我々、時間のやり繰りは自由にできるリタイア組。自分のやりたいように割り振ればよいってことだな。
A そういうことで、今や俺は、「昼型」と「夜型」の二刀流さ。
B Shohei ばりだな。