第四章

シズの至言

 

シズの至言。 あんたの名前「シズ」だが、戸籍謄本には「シツ」とある。濁点の無い昔の表記か、ともかく我々には「シズ」で通っていた。我々の父親ということになっていた男トシローを産んだ女、そのあんたの口癖。「戦争があの子(トシロー)をあんなにしてしもた」「あの子は戦争で、あないなってしもうた」。これがあんたの名言至言だ。 詳細記事

第三章

ユーキチじいさん

 

ユーキチじいさん、テツよりは利口だったようだが、惜しむらくは、その熱心な稲荷信仰。熱心すぎて、いなりのいーなり。すっかり食われてしまったことだ。

カズエから聞いた話では、じいさん、自分が60過ぎで死ぬというお告げを信じていたが、それを過ぎても死なないので、自分は生き過ぎだと、断じ、自殺したという。80を過ぎていた。猫いらずか何かの服毒自殺だったらしく、カズエは家族からではなく、近所の人の話を小耳に挟んで知ったようだ。

信じ込むというのは怖いなと思う。この話を聞いて、我々なら、先ず、吹き出してしまう。 詳細記事

第二章 

カメさん

 

カメさん、あんたはどこまで始末悪い人なんや。私がいちばん話したかった相手なのに、私がやっと物心ついたとき、あんたはもう死体だった。黄色い顔して床に転がっていた。歳は六十過ぎだったか。

カメという名が嫌いで、自分で別の名前をつけていたとか。いつの時代にも名前の定まらん人はいるものよ。

カメは、「鶴は千年、は万年」に因(ちな)んだ命名かな。六十そこそこでは長寿とはいえなかったけど。

今では私の方が年上になるほど時が流れた。話し合いたい気持ちは募(つの)る一方だが、死人に口なし、やむなく手紙を書こうと思うが、お前さん字が読めんそうや。まあ、誰かに読んでもらって。あんたの子や亭主もそっちにおろうからな。 詳細記事

【解説】 このいかにもセンセーショナルな題名の作品は、本サイトの読者の一人からいただいた投稿で、表示のように、その著者については、「幸子」以外は不詳です。

この作品を、フィクションなのか、それとも実話なのかと問う詮索は、まったく無意味でしょう。というのは、これほどにリアルな表現は、まさに実話でしかありえない現実味をもっていながら、他方、こうしたストーリー展開は、どこか並な現実を越えた設定の気配も漂います。いずれにせよ、両者が相まって出来上がった本作品は、読んで見出せる通りに、まさに、日本の深部をえぐり出して見せてくれる、近年にない社会派作の逸品となっています。

現代の日本においてなお、天に昇らなければ愛し合えない男女が存在したのであり、また、自殺に追い込まれる子供たちも跡を絶ちません。日本社会がそれほどに深く精神疾患症状を伴っており、そしてそれはなぜなのか。勇敢にもこの著者は、その謎にいどんでいます。

この作品を読み終えた時、「〈チンポ〉=天皇制」との深奥の等式関係を読み抜けるかどうか。この実に明快なメッセージこそ、この作品の真髄でありましょう。

今回掲載するのはその第一章で、以後、計五回にわたり連載してゆきます。

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2015年末、オランダのデルフト工科大学の科学者らによって行われた実験は、ひとつの対象が他の離れた対象によって、いかなる物質的媒介もへずに作用を受けることを実現して見せた。この発見はある突飛な考え――一世紀前、アルバート・アインシュタインはそれを「馬鹿げた遠隔作用」と見下して拒絶した――を立証することとなった。量子理論では、この現象は「エンタングルメント」として知られ、今や多くの物理学者によって、量子理論が描くミクロ物理学の世界での最も深遠で重要な特徴と考えられている。量子エンタングルメントは、いかにも常識的直感に反する考え方で、物理現象のもっとも根幹となる人間の実体験に逆らうかのようである。毎日の(古典的)物理学の世界では、物体は何らかの物的接触を通じて互いに作用を及ぼし合う。つまり、テニスボールはラケットによって打ち出されて飛んでゆき、窓ガラスにぶつかってそれを壊すのである。 詳細記事

メール】

 

はじめさん

お久しぶりです。

何カ月も連絡もせずすみません。

2016年もあと数日でもう終わりですが、2016年はほんとに苦しい年でした。

このメールは長文注意です。

8月に転職にトライしたのですが、ブラック企業にはまってしまい、半年間まともな職に就くことが出来ませんでした。

改めて、自分の年齢、実力、日本の思考原理、構造など痛感することになりました。

転職に割とおおらかな豪州の感覚はこの半年で完全に消えることになりました。

いよいよ日本に住んでいるという実感を味わっています。 詳細記事

その金曜日の夜11時、仕事が終わって家に帰るところだった。自宅のあるビルの横で、ホームレスがいるのを見つけた。顔が浅黒く、服も手足も汚ない。彼はなぜか空のペットボトルを片手に二本持ち、その場をウロウロしながら叫んだり独り言をつぶやいていた。ふと、何となく彼の顔に見憶えがあるような気がした。しかし、彼の行動が危険に思えたので遠目にタバコを吸いながら様子を見ていたが、どうにも目が悪くて顔がハッキリ見えない。まあ、いいかとそれ以上気にせず家に帰った。 詳細記事