セレブ受難と破格善行の果てに

話の居酒屋

第三十一話

昨年は正月早々、能登を地震が襲った。今年はアメリカ、ロスアンジェルス(LA)の山火事とトランプの返り咲きをもって幕を開けている。その新年の二回目の居酒屋談義は、このLA大火やトランプ再就任をめぐって、二人が遣り取りを交わしている。

 

A 「1月20日、トランプ2.0がはじまったね。」

B 「アメリカの役者が入れ代わり、あたかも善悪がひっくりかえったかの出し物が上演される。」

A 「そして、それに先立つLAの山火事。」

B 「想像を絶する被害をもたらしており、しかも事態はまだ進行中。その波紋を含め、全貌はまだ煙と瓦礫の中だ。」

A 「人災の要素も無視できない。今後、被害の補償を求める裁判は必至で、政治的にも泥沼のような責任のなすり合いが続くだろう。それにトランプの民主党攻撃も加わって、アメリカ社会の亀裂は深まりこそすれ、全社会団結して悲劇に立ち向かおうなぞとの機運にはほど遠い。

B 「それにしても、この大火は、アメリカのことにカリフォルニア的セレブ社会が、あたかも狙い撃ちにされたかの感があるね、自然災害ながら。」

A 「あるある。今日の、ある種の、アメリカのもっともアメリカ的な、その飛び出て華やかなところへの壊滅的な打撃だ。その誰もがうらやむ人たちの財産がたちまちに灰と化して、被災者個々にとっては戦禍トラウマにも近いんじゃないか。しかもそれが集団的に発生している。なんとも現代に象徴的な災害だ。かくして、もともと亀裂が入っていた社会に、このLA大火災がくさびを打ち込んで、もはや後戻りできない社会変質を遂げかねない。そこに悪いことに、トランプ2.0のオレオレ主義だ。」

B 「そこでなんだが、もちろんメディアは報じないんだが、その“セレブでなきゃ人でない”みたいな界隈が大被害に会っていることに、その反面で、“いい気味だ”って冷やかさも生まれているんじゃないか、ことにその“人でない人たち”の間に。僕なんか、同じLAでも、路上生活者がそれこそウヤウヤいる光景を見てきているから、そんな裏返った波紋があるはずと見るんだがね。」

A 「まるで、世界の南北対立みたいな話だが、それはありうると思う。そういうところに、破格の寄付や支援活動といったセレブたちの善行が、これまた華々しくご披露されている。」

B 「それらはいずれもスタンドプレー的で、さすがにかっこよさは抜群だが、時宜を捉えたさすがな災害ドラマ上演と見れなくもない。」

A 「そもそも、端を発した山火事が大火災へと広がったのは、異常気候という想定外の条件があったからだろう。それが、多くのセレブを巻き込むあまたの悲劇を生むにおよんで、今後おそらく、その立ち直りストーリーにスポットライトが当てられてゆくのだろう。しかし、実際の被害は、この山火事に限らず、洪水や大雪、ハリケーン、竜巻など、アメリカ全土におよび、ことに下層階級はその打撃をもろにかぶりやすい。そういう国全体、社会全体に危機的影響がおよんでいるはずで、セレブがセレブを助けてすむ話ではない。」

B 「その辺の、庶民レベルの全国的助け合いの機運の薄さは、天災大国日本で見られるシーンとは、大きなコントラストかも。」

 

A 「でもアメリカ社会ってけっこう宗教的だから、そういう相次ぐ天災に、教会中心の援助活動ってのはあるだろう。ただ、それがあんまり伝わってこないね。」

B 「それに加えて、こうした繰り返される天災に、神がかりなものを感じる人も少なくない。だがそれを、全地球的な災害と捉えるならまだ連帯のきっかけにはなるだろうが、神が与えた試練なぞと説教的になると、伝統的対応を越えられない。せいぜい“皆で祈りましょう”と、一種の終末観ムードに落ちこんでゆく。」

B 「トランプも、先の暗殺からかろうじて逃れられたのは神の意志だと、宗教的信念を深めたという話もある。」

A 「そうらしいが、それを政治的に利用することはあれ、それを地球規模の一致した対応にもってゆくのとはほど遠いのが彼だ。」

A 「ともあれはっきりしているのは、もはや、伝統のアメリカ的“can do”精神を訴え、まとめきる政治的リーダーはいない。まして、そのセレブ崇拝文化は、アメリカ社会の亀裂を、きらびやかにかつビジネスライクに助長させる要素にしかならない。今度のLA大火災は、そのセレブ精神にも火を付け、被災を逃れた幸運なセレブたちの寛大な行いの上演となって、アメリカ社会の分断をあざとく上塗りしていくだろう。」

B 「それに比べれば、日本には、繰り返される自然災害に、手を取り合って立ち直ろうとする、庶民レベルの相互助け合いの精神がまだあるね。これって、もしかして、民主主義的なのかも。」

A 「今や明らかなのは、問題の根源は地球規模であることで、しかもひょっとすると、宇宙的現象のこの惑星上への現れであるかもしれないこと。そういう意味では、天のお告げと言えるかも。それを自らの勢力拡大やかっこ付けの機会としているのでは、それこそ人類は、本当の終末に至ってしまうかもしれない。」

 

B 「要は、セレブ劇を持ち上げる主要メディアの報道に目を奪われず、このLA大火のアメリカ社会全体へのインパクトや教訓をどう捉えるかだね。トランプの言動が政治的な亀裂の拡大を結果するのは間違いない一方、深まる分断が激烈さをきわめる自然災害に対する社会的もろさを進行させているのも確かだと思う。」

A 「ところで、これは僕の希望的観測なんだが、アメリカは、そうした亀裂と災難をくぐりながらも、他のいくつかの大国にみられるような、専制政治の登場をやすやすとは許していない。そういう意味で、民主主義の爛熟がいわば試金石に遭遇しているケースだと見たいね。つまり、アメリカという民主主義の旗手がこのように混迷に陥っていることこそ、次のバージョンの民主的システムが芽生えるための陣痛じゃないかと。」

B 「アメリカって、それをやり切れるのかね。」

A 「トランプの Make America Great Again って、もしかすると、そういうことなのかも知れん。」

B 「民主主義のニューバージョン? さぁどうなんだろう。お手並み拝見だね。」

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