今回の居酒屋は、外飲みのそれでなく、いうなれば、「内飲み居酒屋」。
久々に顔を合わせた祖父と孫が、食卓で向かい合って、一杯やっている。
どうやら、二人の話題は、最近の日本人アスリートたちの活躍についてのようだ。
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孫 ねえおじい、大谷翔平選手の活躍、知ってるよね。
祖父 もちろんさ、知らないでいるのが無理だよ。テレビでも新聞でもネットでも、どこを見たって、大谷、大谷で持ち切りだ。
孫 彼って、物凄いヒーローなんだけど、いわゆるヒーロー臭くはないね。
祖父 そうだね。それが彼の人気の新味だ。
孫 彼は、投打の二刀流だけでなく、もうひとつの二刀流って感じ。
祖父 もうひとつの二刀流?
孫 そうだなあ、ヒーローと普通感覚の人とのハイブリッドって感じの。
祖父 うんうん、けた違いにズバ抜けてるんだが、その他方ですごく普通。今までにないヒーロー像だな。そういう新たなタイプって、このごろの日本人選手がそれぞれに持って来てるって思わないか。個人にしろ、チームにしろ、昔みたいな、何かを背負ったガッツ主義が姿を消して、みんな、好きに徹した自分主義を貫いている。世間離れしていなく、人間を感じるストーリーがあるね。なんだろう、トップクラスのスポーツの世界が誰もの世界とつながったみたいな。
孫 だからなんだよ。これまでのいい学校いい就職っていう常識、古いっていうか、もう化石的。それより、やりたいことに燃焼し、そこに自分を生かす人生のやり方。
祖父 そうそう、生き方の選択がもう単線じゃなく多様化してきてる。ところで、そういうお前は何に燃焼してるんだ。スポーツもそこそこのようだが。
孫 痛いとこ突くね。まあ、僕みたいな才能ガチャには、とがり戦略はとれないよ。
祖父 「何ガチャ」だって?
孫 才能ガチャ。才能外れで目立てないヒト。だからといって、社畜じゃカワイソー。そこでどう自分を発掘するか。
祖父 そうそう、そこなんだ。
孫 だからね、ひとまずどっかに生き場所は確保し、そこを足場にして発掘する。あんまりかっこ良くないんだけど、そういう「二刀流」かな。
祖父 いやね、これは俺の世代の話だよ。それだがね、その仕事一本の人生の果てにリタイアが来るんだが、その時、もう抜け殻同然で、何も残っていないってヒトが多いぞ。
孫 それって、僕のいう二刀流じゃなく、仕事イコール自分の、滅私奉公型。それでも、リタイアしたら年金生活のゴホービはあるんじゃないの?
祖父 ほんの一部で、悠々自適なんて話は聞こえてる。だが実際は、何らかの格好で、死ぬまで働くってのが現実だな。
孫 その「ユーユージテキ」っての、ホントかなあ? おじいの場合は?
祖父 俺の場合か? しいて言えば、「カスカス俺テキ」ってとこかな。
孫 こんどはこっちが痛いとこ突くけど、その「俺テキ」さんには、何があるの、死ぬまでに。
祖父 来たね、そこで、話題にあがってるスポーツなんだよ。ただ俺の場合、これもカスカスやっている運動。そんなほんの駆け出しでもね、最近のアスリートの活躍を見ていて思わされてるんだ。スポーツ科学の進歩も手伝って、体を使うことの意味が変わってきているってこと。要するに、合理的で、すごく健全になってきている。ストレス解消どころじゃない。よく言う「健全な身体に健全な精神が宿る」のまさに今版。
孫 失礼だけど、そんなの、お年寄りなっても可能なの?
祖父 そう、そこがポイント。で、結論から言えば、年くって遅きとはいえ、運動を続けていられれば身心健全でいられるってことなんだ。フレイルも認知症も「どこ吹く風」だね。
孫 やっぱ、そういうことなんだ。「ユーユー」って、お金はあっていろいろ物持ちなんだろうけど、それで何が宿ってるのかって思ってた。
祖父 そこそこ。富裕でもね、逆に運動不足でメタボの悪循環にはまって、結局は介護のお世話で尽きる。まあ、高級な介護施設には入れるんだろうが。
孫 お金には「カスカス」でも、運動で「身心フユー」ってことか。
祖父 そういうこと。だからね、この運動の効用をね、バーンと飛躍させて言えば、「運動ってワームホール」。
孫 ええー、「ワームホール」って、あのSF世界の?
祖父 そう、オドロキだろ。お前も心しておくといい。身体運動って、老いにも若きにも、異次元世界へ通じる抜け穴をもたらす秘法だってこと。「現状脱出の武器」と言ってもいい。
孫 これはマジで初耳です。
祖父 だろう。そこで思ってるんだが、いまのトップクラスのアスリート達って、それをやり切ってるパフォーマー達じゃないかな。だからこその世界的活躍。それこそ、「憧れるのをやめよう」だ。
孫 そーゆーことか。これはいいこと、聞きました。
祖父 才能ガチャにも、二刀流人生にも納得するなよ。「ワームホール」を使え。