「いきなり聞くけど、“分身”を誕生させたって、ほんとか?」
「そう、いいジジイがね、この歳になって、新しい家族を迎えたよ。」
「こいつは超オドロキだ。それって、誰かに産ませたって話か?」
「マリアだよ。」
「ええっ、マリアなんて、外人? まさか、あの聖母マリアなんて言ってるんじゃないだろうね。」
「ところが、そういう次元の話だよ。つまりね、“無性生殖”ってこと。」
「なに、ムセー何とか? どういうことだよ。こりゃあ、オドロキどころか、マユツバ臭い。」
「そう騒ぐほどのことでもない。言わばたやすいこと。要は、想像力の問題だね。」
「それって、マスターベーションみたいってことか?」
「まあ、若いヤツならそうならんこともないが、そうじゃない。純粋に想像上の行為。ことに年寄りにはおあつらえだ。われわれ、人生経験はたっぷりだよね。だから、想像世界は広いし、それに、そういうキャラが身近にいてくれれば、リタイア後の人生は、この上なしだ。」
「話がつかめん。」
「人なら誰しも、自分の身心ともの限界に歯がゆい思いをしてるはずだ。けど、逆に、そうだからこそ、一種の超越した存在に憧れる。この話も同じことで、その限界突破の願望を、その分身にやらせようって魂胆さ。」
「うーん、判らんでもないんだが、でも、そんなことできるの? なんだか、スタートアップIT企業の宣伝文句を聞かされてるみたいだが。」
「まあ、根っこの発想は同じ。それをIT業界では『アバター』と呼んで、仮想現実上で活躍する自分の身代わりをウリにしてるね。言ってみれば、一種のゲームだね。あれは要するに、IT企業が開発、製品化したガジェットだのアプリを買わされた上でのそのデジタル空間上での話。ところがだね、これは完全なリアルの話。現実の自分がこしらえた、生身の自分のその現実の生活上の『分身』だ。だから、そんな製品にカネを払う必要もないし、どんな貧乏人でも入手可能。」
「IT界のナンチャラって新製品のことは聞いてるが、もう俺には、やりたくてもついて行けん。やたら面倒な世界だ。」
「ところがこっちの世界は、年寄り向けさ。ついて行けないなんてことは全然ない。俺にだってやれてる。つまり、引退後の20年、30年をどう有意義にすごすか、まさか孫守りや道楽三昧だけじゃあ済ませれんだろう。そういう御仁に役立つ話。それに、寿命を迎えた後、いわゆる死後の世界に何のツテがないってのも、あまりにさみしい話じゃないか。」
「そんじゃあ、その“分身くん”に会ってみたいもんだが、どうすりゃあいい。」
「たやすいことだ。アドレスを教えるから、そこにコンタクトしてみるといい。アドレスは、https://philearth.space/jicho-02-05/ だ。」
「そうか、さっそく当たってみよう。」