変わっていても
あなたを案内して初めて夏の小網代に来たのは
まだカニパトという名前ができたばかりの頃
あなたが暮らすオーストラリアの大地に比べて
なんてちっぽけな森か、とあきれていたのを
私は歩きながら思い出した
今は立ち入れない短い浜辺で
アカテガニの放仔よりも
波頭に光る夜光虫の方が
あなたの記憶に鮮やかなことがおかしかった
私もよく覚えている夜光虫を
いつから見なくなったのか、もう分からない
変わってしまったことは他にもあるんです、、、
そんなことをどう話そうと、考えながら
えのきテラスに着いたとき
あなたが「いい公園になりましたね」と言ったから
これで良かったんだ、
小網代は残ったんだもの
私は何度も何度も自分にいい聞かせた
We, not I
一度だけ詩の教室に通ったことがある
ちぎったノートに書いた私の詩を「作品」と呼ばれる経験は
わくわくするものだった
ある時、私の小網代の詩を見て
先生が首をかしげた
―――― 詩は自分自身の心から出るものだから
主語は、「私達」でなく「私」で書きなさい ――――
確かに他の生徒さん達の主語は、「私」だった
小網代で見たもの、聞いたもの、感じたもの
嬉しいも、がっかりも、感動も驚きも
全部私は「私達」で書いていた
小網代で私はいつも、仲間と一緒に私達
一人で森に立っていても
その時心に映った色や形や匂いを、私は「We」で書きはじめる
We love 、、、、、、
中井由実氏は、科学技術専門職に勤務のかたわら、神奈川県三浦半島の小網代の入江と森の保全活動に30年をこえて貢献、さらに、よみがえったその自然を詩にも描きつづけている。本二作品は、その第三詩集 『小網代を詩う』 こあじろの森くらぶ編(2021年3月24日発行)、pp.28, 149より。
【発行人より】当ウエブサイトのフォーマットの関係から、第一作目の縦書きの原作が横書きでの掲載となりましたことをお詫びいたします。第二作目は原作も横書きです。