3歳児の朝

 子どもの情景(2)

朝の、幼稚園の靴箱周辺は、家庭から社会への第1歩のようです。
 ここでは、「行ってきまーす」と言う前に、お母さんに2度、3度と抱き着いて、お母さんの温かさ、柔らかさを確かめている姿があります。お母さんの後ろに隠れながら、保育者の様子を覗っているのは、「さあ、行くぞ」と、心の準備をしているのかもしれません。また、「一番にお迎えに来てね」と約束しているのは、「いつも、私のことを考えていてね」という気持ちなのでしょう。そして、大きな声で「先生、おはようございます」と、言える姿も、その内側では自分自身を奮い立たせて、心の切り替えをしているように見えます。
 自立と依存が混在していて、思わず微笑んでしまうこともしばしばです。
 幼稚園には、正門を入ったところに、もう一つの通用門があります。ここは、登園の時間が過ぎると、園児たちの安全のため、閉めています。門の形がちょうちょのデザインになっているので、子どもたちも職員たちも、「ちょうちょの門」と呼んでいます。
 入園当初は、園庭を通って保育室の靴箱がある入口まで、保護者に送ってもらう子どもたちがほとんどですが、だんだん園の生活に慣れてくると、この、ちょうちょの門のところで、「行ってきます」を言えるようになってくるのです。
 ある日、園児と、その妹らしい2歳くらいの幼児を抱っこされたお母さんが、ちょうちょの門まで来られて、「行ってらっしゃい」をしようとすると、お姉ちゃんの方が、ちょっと、顔を曇らせて、躊躇している様子です。きっと、「これから妹は、お母さんとまた家に帰って、一緒に遊んだり、抱っこしてもらったりするんだろうな」などと思いが巡り、妹が羨ましくなってしまったのでしょう。すると、お母さんは、抱っこしている妹さんの方を、ちょっと降ろして、代わりにお姉ちゃんをきゅっと抱っこされ、何か言葉をかけられました。すると、お姉ちゃんは、納得して、保育室に向けて駆け出しました。お母さん方は、このように、自然に子どもさんたちの気持ちに寄り添う方法を考えだされます。
 保育者は、たくさんのことをお母さんやお父さんはじめ、保護者の皆さんから、学ばせてもらっています。

 

付記 今年度の保育園、幼稚園などの入園当初は、まったく違ったものになったことでしょう。新コロナウィルス禍で、入園日が決まらず、不安を増しながら、5月の連休明けから始まったところもかなりありました。そして、生活のルールがいくつか増えました。保育者や、友達との距離をとる。手指の消毒や、マスク着用です。距離をとることや、マスクは、子どもたちと接する場では、難しいところがあります。子どもたちは、くっつきたいのです。マスク着用では、子どもたちの表情も読みにくく、保育者の笑顔も伝わりにくいからです。名前を覚えることも、やりにくかったことでしょう。でも、それらの心配も、もう乗り越えて、新たなコミュニケーションがしっかりつながったところでしょうか。今後も、インフルエンザと同じように、コロナウィルスへの対策を取りながらの日常を造って行くのですね。みんな頑張ってね。

北谷 正子

 

【管理人より】

8月22日号に、「巣立つ園児に贈った言葉 ;リタイア元幼稚園教員の手放せない原稿」との投稿記事を掲載しました。この筆者から、連続しての投稿掲載の希望をいただき、シリーズ「子どもの情景」として掲載してゆきます。リタイア後の身辺整理の中から、断捨離しきれなかった拾い物を記事としたものです。

 

初回へ  次回へ>

Bookmark the permalink.