ナルシスか「アバター氏」

『地球「愛」時代の夜明け』(その3)

投稿:縞栖 理奈

気象用語に、「瞬間最大風速」と「最大風速」という専門語があります。よく、台風予報のなかで用いられるのですが、たとえば、「台風△〇号の最大風速は40メートル/秒、瞬間最大風速は60メートル/秒」というものです。そしてその数値の定義は、最大風速は10分間ごとの平均風速のうちの最大のもの。瞬間最大風速は3秒間の風速の最大のものです。ですから、台風による風の最大の破壊力はこの瞬間値によって発生するわけで、それに耐える建物でなければ、たとえ瞬間の風であろうと、その一瞬に吹っ飛んでしまうということとなります。

なぜ、こんな専門語を持ち出すのかと言いますと、貴サイトの各記事は、起伏ある日々の中で、そのまれにしかやってこない、上の用語でいう「瞬間最大風速」にあたる瞬時の高エネルギーを使った見解とうかがえ、時に、実に明晰かつ切れの良い論述が拝見されます。おそらく、それらが書かれた時は、いくつかの条件が揃ったその瞬時の切り口をもって仕上げられた見解であるのでしょう。

 

集大成としてのアバター像

そこで、こちら読者側も、なんとか当座のエネルギーをかき集め、一気にそうした諸記事を通して読むと、その読後には、実に圧巻な見解に導かれていることに気付かされます。それもそのはず、それは、最大瞬間風速作品ばかりの選りすぐりの集大成体験と言ってもよいもので、平均風速作品の羅列では、とてもそれには及ばないでしょう。

もちろん、人間も大風も、実際の在り方には自然な揺れがあって、常時そんな瞬間最大値を保っているわけではありません。そうした揺れ動く起伏のある、あるいは、立派だったりだらしなかったりをさまよう、生々しいごちゃ混ぜ状態が実際です。

そこでですが、アバター氏の背後に座しているはずの作者が、貴サイトの総体をひとつの人間像として、それを「アバター」と称してまで必要とするのは、以上のような「瞬間最大風速」の連続が体現するスーパー人格をそう呼んで自己像に置き換え、それに酔いしれている、一種のナルシスな気配や発想が目指されているかに、私なぞには憶測させられてしまいます。

何というのでしょう、真面目な性格の人物が向上心を磨くが余りの到達感覚とでもいうのでしょうか。それを、作者が登山好きの人物とも伺えば、それは登頂志向の産物かと、納得するところでもあります。

とは申せ、現実の日々の波に押し流される私自身にとって、そうした高みにたとえナルシスな創作としてでも接せる体験は実に貴重で、また読書とは、そもそもそういうものです。

さらには、そうした掲載記事の中には、実に克明に、自身の日々の移り変わりを映す場とか、あるいは、日常から離れた創作の場をそれぞれ区別して設け、その各々に、自分にまつわる(おそらく)隠さぬ事実を投射するといった実写「ドキュメンタリー」作業を持続されています。私には、そうした制作姿勢に、勇気というか透明さというか、敬服させられるものを発見します。

くわえて、それらの作品はフリーで公開されたサイトに掲載され、誰もが自由に読めるという便宜すら供されています。

私の知る限りでは、これほどの自情報の披瀝行為は、他に類例を見出せません。

 

二刀流技

それもこれも、現実生活においての、作者のたゆまない健康志向の日々によって築かれた健全な身体インフラに支えられた、その確かな構造のたまものと、これも貴作品から学んでおります。

人というのはとかく、自分の生活のどこかに油断を許し、それを余裕や粋とすら勘違いしているものです。そして、酒とか煙草とかと、ゆくゆくは命取りにもなる生活習慣との腐れ縁を、なかなか絶ち切れないで引きずりがちです。

それを、そうしたインフラ構築ばかりでなく、そのインフラ構造物へのアリの一穴も許さないような維持管理を実施し、その健全な構造の所産というべきアバターまでをも生み出しえているのは、さすがに元土木技術者という工科系人の几帳面さが伺えるようです。くわえて、横書き日本語――ネット環境ではやむを得ない条件ですが――の様式ながら、著述もこなせるという文化系の技量も持ち合わせているという、二刀流技の保持者であると拝見いたしております。

さらに個人生活面に踏み込むことをお許しいただければ、結果的にはお子さんがいらっしゃらないという、家庭責任の維持に自分のエネルギーを割かれることがないという、これまた一般的ではない物静かな生活を送られている様子にも目が止まります。これを「恵まれ」と言うか「さみしさ」と言うかはともかく、こうした特異な諸条件に支えられ、あるいは、あえてそれを選択した上での、独特なスタイルであります。

 

以上のように指摘できる独特のナルシシズムなのですが、私はそれの良し悪しを述べるつもりは全くありません。むしろ、そういう特徴に支えられたアバター氏が、今後、どのような可能性を切り拓いてゆくのか、それに注目させられております。

 

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〔注記〕小見出しは当サイト発行人による。

 

 

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