今回の「話の居酒屋」シリーズは、Line環境を通じての日豪越境談義。前回の「二人のガイド」を読んだDとそのAとの対話である。AとDは、かれこれ二十年来の付き合い。Dは、四十代後半の典型的な氷河期世代で、かつて、冷え切った日本に見切りをつけ、転機を託してオーストラリアに渡ってきていた。そしてAとは、シドニーの和食レストランで働く、年の離れた同僚同士となった。Aは長年の準備もあって永住の地位を得ていたが、ワーホリだったDは、全力をあげた努力にもかかわらず万策尽き、その日本への舞い戻りの憂き目を見るにいたった。今回の談義は、こうした背景を持ち合った、団塊とそのジュニアの世代間の、「疑似親子」同士のやり取りである。

「時間が味方」と語られた避難小屋 .
D Aさん、「二人のガイド」の記事、読みました。時間や寒波との闘いのすごい雪山ストーリーですね。しかもそうして、「時間」が「味方」と語られてしまうくだりには、思わずうならされてしまいました。というのは私の場合、さんざん、もがきにもがいてみたのですが、「時間」は常に「敵」だったと考えるしかなかったものですから。
A そう受け取るのも、実にもっともなことだと思うよ。どこかの芸人「しんさんなめ子」ではないけれど、ことごとく「辛酸なめ男」同然な君だもんね。
D 舞い戻ってゆく日本に、時間だろうと仕事だろうと、味方を期待しようにも、できるはずもなかった。それこそ、吹雪のなかに自ら孤立したほとんど遭難者だったんですから。
A でも、そのワーホリ体験で身に着けた英語がいま役に立っている。
D ええ、一種の輸出業をやってますからそれくらいは言えます。でもそれより、そうした遭難状態からどうやって生還できてきたかです。厳しい吹雪の中で。
A 「時間が味方」だなんて選択が、生死を分けたんじゃないってことか。
D もしそこに、そうやって事を先送りしている姿勢が少しでもあったら、「味方」どころか、それはもう自滅行為でした。「自分さがし」なんて安穏なことを言ってる連中もいましたが。
A どうも時間は、二つの姿を持っているようだ。人の中を流れる〈内なる時間〉と、社会の中を流れる〈外なる時間〉。
D Aさんが言う「味方の時間」とは〈内なる時間〉のことで、〈外なる時間〉に圧倒されないで、その貴重さに気付けということ。私が言いたいのは、味方であるわけがない〈外なる時間〉をも相手にせねばならなかったということです。
A その〈外なる時間〉の横暴に、あまりにも牛耳られているのが今の時代。
D そういう意味では、日本もオーストラリアも違わなかったということです。それをAさんは「二重構造」と言い、日本に舞い戻りながら私は、その敵陣入りに身構えていた。どっちの国を恨んでみても、何も始まらんわけですから。
A 我々の戦後世代って伝統的に、時代を恨むというか、その批判に熱を上げながらも、そこに埋没しているナルシスに甘んじてきたふしがある。
D 僕らにしても、人手不足もあって仕事にあぶれることはまずありません。とくにもっと若い人たちは、スマホを駆使して知識は飛び回っているし、並大抵の帰属意識なんかには鼻もかけず、多種多様にマイウェイに徹している。良きにも悪しきにもスマートエゴイストなんですが、でも、もしそれが問題とするならば、そういう社会はそれほど利他的なのかと疑いますね。社会保険にしても金をむしり取られる一方です。
A そこでなんだが、今度の衆議院選挙結果。我々戦後世代にしてみれば、起こってはならないことが起こっちゃった。これってまさに、日本ばかりか世界をも驚かせた結果で、そこに日本の別の切り口が見れる。そして君にとっては、読みと狙いがまさに的中したも同然で、株は上がって副業栄え、円は下がって本業繁盛。まさにこの世の春到来だね。
D 確かに私の生活に、突如「味方の大群」が現れたごとくです。心底、長引いてほしいもんです。
A 問題の「時間」も含めて、「敵」を読み切った戦果じゃないか。そしてそれと同時に、今度の選挙って、口先ばかりの戦後民主派を見限って、若い世代、ことに女性たちが、「頑張るさなちゃん」に新時代を見ようとした。
D そのご当人も、本心、まさかここまでと驚いているのかも。
A 中国の傲慢な対日敵視が日本を結束させた一面もある。
D ともあれ、誰も予想していなかった恐ろしくまれな歴史的集結が生じて、突如、日本の新局面がこうして表舞台にせり上がってきた。
A さあ、どうなんだろう。年寄りの杞憂を言えば、短、中期的には、ことに国際的に不安定さが増してゆくのは間違いなく、そんな危険な状況にどう対応できるのか。それこそ、働きまくる「女手ひとつ」でこなせる話じゃない。
D 有事の事態ってことですか。
A それに限らず、借金大国の日本、どの国も悩む移民問題や米露中の大国エゴ化など、世界のタガが外れてしまって何が起こるか予想もつかない激振の世だ。
D そういう混迷する世界との脈絡で見れば、こんどの選挙結果ってひょっとして、眠らされていた日本の潜在力の目覚め、あるいは、いよいよの出番の到来、と見れなくもないんじゃないですか。
A こいつは超大胆な提起だ。だけど、その「さなえ現象」にしたって、堕落しきった自民にいきなり結党以来最大の絶対多数までを与えてしまって、それがまさか「日本の目覚め」って話にはならんじゃないか。大敗北したにわか「中道」にしたって、こうして生き埋めにされたまま、永眠するってわけにいかんだろう。せめて、「死なばもろとも」ぐらいは見せたいはず。
D ならばわれわれ生活者にとって、そんな政治軸でも、観光すがりのおもてなし経済論でもなく、いったい何を今後の中心軸に見据えて行けばいいんですかね。
A そんな絡みの中で、「人生三周目」がやって来ようとしている。
