「ふりだし」が「あがり」

〈連載「訳読‐2」解説〉グローバル・フィクション(その27)

車いすの宇宙物理学者、スティーブン・ホーキンズ博士は今月12日の記者会見において、人類が地球を脱出して移住できる惑星を見つけるプロジェクトの発足を提唱しました。彼によると、人類はこの先100年以内で滅びる可能性があるといいます。世界の大金持ちたちは、このプロジェクトに賛成し、大金の提供を約束しているようです。率先して逃げ出す用意を整えているのでしょうか。

そうした宇宙版ノアの箱舟のアイデアは、いかにも西洋人的で自然征服的です。同じアイデアを裏返せば、宇宙の果ての他の惑星で、この地球同様の問題をかかえ、その移住先を求めて、すでにその使者がこの地球にやってきているとの見方も存在しています。

私見を言えば、そもそも、そうした直線延長的なアイデアに基づいた解決法が、実は、今日の地球の問題の原因となっているという、本質的なパラドックスに気付く必要があります。思うに、少々結論を急いだ言い方をすれば、宇宙の真理とは、もっと循環的な、それこそ地球は平面ではなく球体であったという、「ふりだし」が「あがり」でもあるアイデアに近いのではないかと思われます。

私はこのブラッド・オルセンの『エソテリック』2部作を「訳読」してきているわけですが、専門業としての翻訳者ではありません。あくまでも素人の必要作業の一環です。なのですが、それがプロであろうとアマチュアであろうと、やっている作業は同じで、そういう意味では、この作業は、その原作者にどれだけなりきれるのかといった、役者にも近い醍醐味があります。

私は、その『エソテリック』を、とりあえず『東西融合〈涅槃〉思想』と訳して、この訳読にひとつの恰好を与えています。つまり、生の人間の取り組んでいる究極を求める作業という意味では、『エソテリック』とは西洋人の視点からのそれであり、それを日本語の世界からとらえる立場からでは、日本の土台の「〈涅槃〉思想」ということとなり、そしてその読み手として翻訳に取り組む動機という意味では、「東西融合」となるだろうという考えです。

日本はかつて、東洋の小国として、独伊を除く全西洋を相手に戦争をしかけ(あるいはしかけさせられ)て敗北し、その配下となって現在に至っています。つまりこの訳読とは、そういう日本語の世界が、そうした勝者としての西洋の一角から声を上げている、『エソテリック』という≪非西洋≫への視点を理解しようとしている試みです。

さて、そういう勝者としての西洋の代表たるアメリカは、その支配を維持しかつより大きくする使命を負っています。そういう勝ちづづける必要の最先端に、地球の覇者がいよいよ、その地球を脱する視点が出てきます。

そういう連勝のための手段が、今回の訳読の章「宇宙兵器」です。しかし、その設置がどれほどに曲折したものか、その議論にご案内いたします。

 

 

 

 

 

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