今回の居酒屋談は、外飲みでも内飲みでも、その場はともかくとして、熟年の男女お二人が、けっこう活発にやり合っている。お二人、同居人同士なのか、元夫婦同士なのか。
女 あなたを見てると、この人勘違いしてるんじゃないかって、時にイライラするんだけど。
男 おやおや、こいつは手厳しいね。どこがなんだよ。
女 なんだか、自分が先に立って健康ぶってるみたいに見えるのよ。だけど、そう健康にいそしんでいられてるって、誰のお陰だって考えたことある?
男 誰かのお陰? とんでもない。俺はすすんで、自分のやるべきことをやってきたからのこうした結果だよ。
女 ほら、そこなのよ。自分がそうした選択をしてこれたって、それ以前のお膳立てがあったからの話。第一、もし、あなたに子供がいたら、そんな今みたいな生活できてた? おおいに筋書きが違ってたんじゃない?
男 そんなこと言ったって、子供の有る無しなんて、俺だけで決めれる話じゃあるまいし。たまたま相手の女たちが、みな誰も、子持ちになりたがらなかっただけのこと。
女 ほらそうじゃない。あなたって、そんな用心深い女たちの生きざまがあったから、父親になる役も回ってこなかった。
男 それは違うね。最初の結婚だって、結果的に子なしに終わったけど、それだって、「出来ちゃった結婚」のはずが想像妊娠だったからだ。
女 そうでしょ。その想像妊娠だって、相手の女性の心配心の結果でしょ。まさかそうウソをつかれたとは言わないけど、そこまで相手は思い悩んでいたってこと。結婚もしないでセックスされて、妊娠したらどうなるんだろうって心底から心配した結果の想像に、体も反応したって話でしょう。
男 子ができたって宣告されたらもちろん結婚するつもりでいたし、現に、そうした。
女 そういう成り行きでしょう。つまり、相手の女性の心配心が、結果的に、あなたを父親にならないで済ませてくれた。けれど、もし相手の女性が、そんなにシビア―な人でなかったなら、いまは何人かの息子や娘の親父。おそらく孫すら。
男 だって、これだけは男には決められないことだろう、生物の仕組みとして。
女 まあ、男はセックスしまくっても、親となれるかどうかは、結局、相手の腹しだい。
男 ともあれね、俺にまつわる女たちって、誰もみな子なし志向だった。
女 そうした現実に敏感な女にとって、あなたって、たのもしい主人って雰囲気じゃないし、まして甲斐性も微妙で、母親志向の女たちにしてみれば、ほとんど相手ではなかったってことね。そして、こんな社会で将来を心配した、子なしを決めた女たちにとっては、まあおあつらえだった。
男 俺だって、どうしても父親になりたいなんて思ってなかったさ。その辺はいわば、相手任せにするしかないだろう。そういう双方の「おひとり様」志向の結果だね。
女 それはね、ことの成り行きの結果をつかんだ話で、もとはと言えば、もっと深刻な子なしを強いる社会環境があったってこと。だからこその、今にいたっての人口減なのよ。
男 そういう社会的なことなら、俺の健康志向も、そんな病的社会の反映で、男でも、健康意識の高い人なら、いろいろ対策に励んできている。煙草喫みが少数派となり、バカ飲みの機会が減ったのも、ましてランニング人気もそのひとつ。それに、仕事より自分やファミリー第一のスタイルも、その現れだよ。
女 それも、そんな社会の末端現象としての選択の色々ね。あなたの粋がったような健康志向も、そういう社会全体の不健康さあっての、その気付きや健康破壊の恐れからでしょう。
男 と言うことは、男の健康志向以前に、女の方で、子を産めない環境への根深い心配があってこうなってるって言いたいのかな?
女 解ってきたみたいね。つまり、女の直感がまずあったってこと。男の意識は、いわば、呑気って言っちゃ悪いけど、その後追い。
男 人口を増やすため、フリーセックスをもっと解禁せよなんて話もあるぞ。
女 そんなヘドが出るような男中心談は、そうでなくても恐ろしくそうなっている。ハメもわきまえもなく、やりたい放題の男たちが、貧しさに追い込まれてる女を、未成年まで、どんどん買いあさってる。
男 日本って昔っから、女を貧しく置いておけって、そういう社会だったね。男のエゴも下半身も安泰の。
女 要は、女が安心して子供を産め、暮らせるようにならなければ、間違っても、人口は増えない。
男 それが遅ればせながら、男の健康意識として現れてる。ということは、世はそうとう末ってことか。