本稿は、私の長年のオージーの友人が著した二部作のレポートの前半である。現在の日本が行き着いている政治的、経済的位置の窮状を的確に指摘している。後半は、混乱を極める世界情勢にあって、日本とオーストラリアの相互の関係について、より絞った見解が述べられる。〔English原文〕

スキだらけの日本(3月21日付日本経済新聞電子版より)
日本は、金融という狼たちに狙われている。
金融は、常に最も容易に蓄積できる経路を探して、水と同じように流れる。世界には、負債よりも貯蓄の方がはるかに大きく、資金が蓄積されている場所がいくつも存在する。シェイクスピアの『ハムレット』には「借り手にも貸し手にもなるな」という父親による助言がある。
2026年時点で日本政府の純債務はGDP比で約130%に達しているが、その大部分は国内で保有されており、外国人が保有しているのはわずか11%にすぎない。日本銀行は日本国債の大半を購入している。これは左手が右手から借金するようなやり繰りの仕組みである。さらに、日本の民間銀行、保険会社、年金基金も日本国債を保有している。
日本は、アメリカの指し図のもと、先駆けて量的緩和政策を導入した。これは通貨を大量に発行し、金利をゼロ、あるいは極めて低い水準まで引き下げる戦略である。その結果、いわゆる「円キャリートレード」が生まれ、主に米国の金融機関が日本で低金利で資金を借り、より高い利回りを求めて世界中に投資するようになった。
日本の一般国民は、厳冬に備えて木の実を蓄えるリスのような心理を持っている。これは日本人の精神性の一部であり、日本を世界最大級の純貯蓄国にしてきた。莫大な貯蓄が、郵便局とゆうちょ銀行を筆頭とする金融機関に預けられているが、低い利回りしか生んでいない。多くの日本人は、自分たちのお金が「眠っている」と表現している。
財閥と戦後日本の構造
日本の主要企業の多くは、1868年から1912年にかけての明治時代に創業された。三菱をはじめ、三井や住友といった既存の商家と結びつき、歴史的な氏族的構造を基盤とする企業組織を形成した。これらは「財閥」と呼ばれ、第二次世界大戦後には「系列」と名称を変えた。
日本企業は、製造業、銀行、商社、海運など多様な事業を含む株の持ち合い構造を形成し、企業家族の傘の下で運営されていた。多くの場合、これは西洋からの圧力や攻撃に対する防御的反応でもあった。一方、トヨタ、ホンダ、松下電器(現パナソニック)、ソニーといった企業は、自動車や電化製品などの特定技術を軸に発展した。
第二次世界大戦の敗戦後、日本は史上初めて外国勢力に占領された。アメリカはアジア太平洋地域の覇権国家となり、日本が目指していた「大東亜共栄圏」は挫折した。
敗戦に乗じた日本のエリート層は、1945年以降、占領者であるアメリカに協力し、日本の国家および企業の管理者として居座り続けた。冷戦の進展により、ソ連がアメリカの最大の競争相手として浮上すると、日本はその地位を利用して機会を得た。
1949年に中国で共産党が政権を掌握したことで、中国はアメリカの影響下から離脱し、結果としてアメリカは日本への依存度を高めた。当時の日本のエリートは国際情勢を読み取り、アメリカの同盟国として自らを有利に位置づけた。日本は太平洋における“不沈空母”となり、全土に米軍が駐留した。日本はアメリカへの依存を維持する限りで、その経済復興が許されたのである。
バブル、改革、金融資本の浸透
朝鮮戦争に続くベトナム戦争といったアジアにおける大規模な米国の戦争は、日本に成長と繁栄の余地を与えた。
属国は命令に従う義務があるが、同盟国には交渉の余地がある。日本はより柔軟な同盟関係を模索し、その象徴が田中角栄首相であった。彼は叩き上げのアウトサイダー政治家であり、日本国民の利益を重視していた。しかし、米航空機製造会社からわいろを受け取ったいわゆるロッキード事件で墓穴を掘ったことは、日本の対米従属的地位を象徴する出来事である。
1980年代後半、日本経済は最盛期を迎えた。政治・軍事面で米国を脅かすことはなかったが、経済面では明らかな挑戦を行った。米国はベトナム、朝鮮そして他の戦争で勢力を弱め、日本を世界経済におけるいっそうな大国へと押し上げた。そして1980年代、日本は世界史上でも顕著なバブルを通して、日本の地価は異常な水準に達した。その最盛期には、皇居とその周辺の資産価値が、アメリカの全カリフォルニア州の資産価値を上回るとさえ言われた。
1985年のプラザ合意のもとで、アメリカは日本に通貨高を強制し、貿易黒字をさらに拡大させる一方で、日本の輸出競争力を弱体化させた。
1990年代、日本は、過大なインフラを建設するなど大規模かつ継続的な財政出動によって通貨発行に依存する債務構造を作り上げ、そのバブル崩壊に対処した。
同時に、日本はアジアの工業化を活用し、その多くの先端技術の生産拠点を中国や東南アジアに移転した。たとえばカメラ産業では、レンズは日本で製造され、組み立ては中国で行われる。この戦略により、日本経済は緩やかではあるが管理された縮小を遂げることには成功した。しかしそれは、世界で最も急速に進行する高齢化という厳しい人口動態と同時進行だった。
現代日本の転換点
現代日本の企業構造の転換点は、小泉純一郎政権(2001~2006年)と安倍晋三政権(2012~2020年)にあった。両政権はサッチャー/レーガン型の自由市場モデルを受け入れ、英米ほどには極端ではなかったが、旧来の日本型企業構造を弱体化させた。株の持ち合いは縮小され、特に米国の金融資本を中心とする外国投資が日本に流入した。
現在、三菱、三井、住友といった総合商社は株主構成を開放し、米国経済を金融投機中心へと変貌させたその投資家たちが大きな影響力を持つようになった。軍産複合体に加え、石油・ガス、ハイテクそして農業など、多くの産業が日本市場への参入を欲しており、トランプの貿易戦略を通じて、日本に対し市場開放と米国からの購入を迫り、鉄鋼、自動車、ハイテク分野において、米国への戦略的投資を呼び戻そうとしている。
日本への投資に関して言えば、彼らは日本に米国式の株主還元モデルを構築するように求めている。
「重役会議を目ざませよ」とのタイトルの『エコノミスト』(2026年2月14日号)の記事は次のように述べている
2010年に安倍晋三首相が日本経済の改革に着手した際、企業の停滞ぶりを無視はできなかった。利益は薄く、バランスシート上には巨額の現金が眠ったままであり、企業間の株持ち合いがアクティビスト投資家の参入を拒んでいた。そこで彼が推進した改革は、「ジャパン株式会社」に新たな活力を吹き込むことだった。2015年に新たなコーポレートガバナンス・コードが導入される前の10年間、日本企業は、配当を含めゼロの株主還元しか行わなかった。しかしその導入以来、日本企業の株主還元率は170パーセントに達し、欧州の同業他社を大幅に上回る実績を上げた。
アクティビスト投資家が東京に殺到し、経営陣に圧力をかけて不採算事業の売却や、自社株買いを通じた株主への還元を促した。昨年、上場日本企業の自己資本利益率(ROE)は8.6パーセントを記録した。目覚ましいほどの数字ではないが、2010年から2015年までの平均6.3パーセントからは上昇している。過去5年間、企業は営業キャッシュフローの33パーセントに相当する配当と自社株買いを実施している。
「海賊」の餌食となる日本
現在、多くの日本の大企業は、株持ち合い関係を解消し、筆頭株主は米国投資家となっている。日本の大手商社のうち3社では、ウォーレン・バフェット率いるバークシャー・ハサウェイが主要株主である。
ウォーレン・バフェットは、これらの企業の貸借対照表に内在する本質的価値を見出した。これらの企業は、複数の事業分野にまたがる強固な技術基盤と規律ある構造を持ち、さらに日本文化の重要な要素である「勤勉さ」を備えている。業界メディアの報道によると、2026年時点で、バークシャー・ハサウェイは、日本の総合商社である、三菱商社、三井物産、伊藤忠商事、丸紅、住友商事の株式を10パーセント保有している。その評価額は300億ドルを超えると推定されている。バフェットは2020年にこの10パーセントを取得し、それまでの9.9パーセントという上限を超過させた。
現在、日本で事業を展開しているその他の米国系プライベート・エクイティ企業は以下の通りである。〔1〕
●KKR:今後10年間で日本に対して約1兆円の投資を約束しており、大規模なバイアウトや企業のカーブアウトに注力。
●ベイン・キャピタル:2029年までに5兆円を投資するという長期計画を策定。
●カーライル:2024年までに4,300億円の日本向けファンドを組成し、日本ケンタッキー・フライド・チキン(KFCホールディングス)に対し1,300億円の公開買付けを実施。
●CVCキャピタル・パートナーズ:運用資産68億ドルのうち20パーセントを日本に配分。
●EQT:エレベーターメーカーのフジテックを約4,080億円で非公開化(P2P)するなど、非公開化案件に積極的に取り組んでいる。
●ブラックストーン:複数の案件を手掛けており、2025年にはテクノプロに対し約5,070億円の公開買付けを発表した。
今日、日本は世界的な金融システムにおいて極めて重要な役割を果たしており、上述の通り、量的緩和を通じて通貨を発行し、世界中に投資する投機資本に対して低金利の融資を行っている。2020年代初頭までの数十年間、日本は世界最大の純債権国であり、国際投資ポジションの純残高も世界最大級であった。米国を筆頭とする世界のプライベート・エクイティ企業は、日本企業を絶好の機会と捉え、日本を標的としている。
これらは「企業の海賊」として、日本企業が長年にわたり築き上げてきた現金や資産を略奪しようとしている。その代償を払わされるのは、主に日本国民である。日本の資産からの資金が吸い上げられるにつれ、世界の上位1パーセントの富裕層はかつてないほどに豊かになるだろう。
日本の未来への問い
現在、日本の円安政策と依然として低い金利により、日本は投資先として極めて割安な市場となっており、この状況がしばらく続く可能性があり、将来の買いがさらに儲かる状態が続くだろう。
日本は常に資源や農業生産物、ことにエネルギーの輸入に依存してきた。中東における現在の危機は、日本に甚大な影響をおよぼしている。湾岸諸国へのの石油・ガス輸入の依存は、日本を脆弱な立場にしている。これは日本経済に影響を与え、円安を招き、日本をさらに有利な買い場にするだろう。
「ジャパン株式会社」の解体は、まさに本格化している。日本人は、金融資本によるこの攻撃を撃退し、ますます複雑化する世界の中で自らの立場を再構築できるのだろうか。
エネルギーと食料安全保障を確保する戦略は、日本にとって最優先課題である。その自然なパートナーはオーストラリアである。地政学的緊張と金融不安が高まる中、日本は交渉の席に着き続けることができるのか。日本政府は、日本国民を第一に考え、その利益を守るための計画を策定できるのだろうか。
〔翻訳、小見出し、写真は本サイト発行者である私(松崎)〕
脚注〔1〕:https://www.perplexity.ai/search/otehr-private-equity-companies-TnN9jxL1SoK1J070_pnqMQ
