この9月末から10月初めにかけて、私たちが訪れたのは、フンザ渓谷の主要部である、下流のライコット(Raikot)橋から上流のソスト(Sost)村まで、約200kmにわたる一帯です。この深くえぐられた谷にもかかわらず、日本なら1級国道並みのカラコルム街道が貫通しており、ゆうに時速80キロでもとばせる快適なインフラが整備されています。そのため、後述するように、同街道脇の休憩所から、一歩も山道に踏み入ることなく、高さ7,788m(世界27位)のラカポシ峰北壁を文字通り眼前にできます。実に6,000mを超す圧倒される高度感の体験です。さらに、下流では、世界9位のナンガパルバット峰(8,126m)の雄姿も車中にいながらにして望めます。これほどのアプローチの良さで、7~8千メートル級の高峰群をほしいままに体験できるのは、世界でもここだけと言えましょう。
案内地図
フンザ渓谷地区拡大図
整備された道路インフラ
これほどの足の便利さが実現しているのは、長い歴史の産物と言ってよい背景があるからです。
ふつう、世界きっての高峰を拝むには、山並み奥深く踏み入って、そのどん詰まりの奥ふところがその地であることが多い。
ところがこのフンザ渓谷は、中央アジアを東西に通る陸のシルクロードが、新彊ウイグル地区で枝分かれしてインド洋の海のシルクロードとを結ぶ、南北のシルクロードとも言うべきカラコルム街道によって貫かれているからです。
そのため、フンザ渓谷の人びとには、山間の村々の閉ざされた村民とは違って、どこか洗練された多彩な顔触れがあって、文化の高さも感じられます。
また地元料理は、一般にカレー風料理ではあるのですが、私としてはインドのものよりマイルドではるかにおいしく感じられ、メニューも多彩です。
そういう地が今日では、北は中国、東はインド、西はアフガニスタンと国境を接し、ことにインドとは、カシミール地方の帰属をめぐって、深刻な武力対立を抱えています。そこに、インドと中国間でもの同様な国境問題があって、いわゆる敵の敵は味方という力学が働いて、中国はパキスタンへの援助に力を注いでいます。それがこのカラコルム街道を、ここまで高規格道路にさせている現実的背景となっています。
事前に懸念させられた治安も、上記のような土地柄、街道の要所には検問所が設けられ、旅行者はパスポートやビザの提示を求められます。しかし、少なくとも同渓谷沿いに関する限りは、事実上、なんらの治安上の心配は感じさせられません。人々もどこかシャイで親しみやすく、人柄も温厚さすら感じられ、まして盗難にことに用心させられるような気配もありません。
アプローチ
私たちは、シドニーを発ってバンコック経由でパキスタンのラホールに入り、そこで国内線に乗り換えてイスラマバードへ、そこでさらにプロペラ機に乗り換えてフンザ渓谷の中心地、ギルギット(Gilgit)に降り立ちました(詳細は別掲日程表参照)。
イスラマバードからギルギットまでは、フンザ渓谷をさかのぼるおよそ一時間の飛行で、機の窓からは雪を頂く数々の高峰が望まれ(写真下)、あたかも観光遊覧飛行かの気分を味合わせてくれます。
降り立ったギルギットの町は、まだ午前9時前というのにもう暑く、からっとした空気を通して強い陽射しが肌にジリジリとしみます。
空港玄関口で、この先お世話になるゴールデン・ピーク・ツアーズのシャバ―君と落ち合い、町の彼の事務所で打ち合わせ後、さっそく、車でフンザの中心の町、カリマバードへと向かう。2時間半ほどの道のりという。
途中、たどるカラコルム街道脇の休憩所【冒頭地図上の黄文字番号(1)の地点】で昼食をとったのですが、その休憩所に座したまま、まさに見上げるラカポシ峰(7,788m)が超圧巻です。街道から山道を一歩もたどることなく、この高峰の北壁が眼前にでき、そのピークとの高度差は6,000メートルを越えています。
食事後、30分ほどのドライブで、フンザ渓谷の中ほど、北岸に位置するカリマバードの町に到着、ホテルに落ち着きました。
そこで通された部屋からの展望が、これまた、息を飲むような風景(写真下)です。
【つづく】