いま、ベトナム中部のフエのホテルでこれをつづっています。
フエと言えば、ベトナム戦争中、僧侶が抗議の焼身自殺をした町として思い出されます。
三日前、シドニーよりクアラルンプール経由のLCCでハノイに入り、二泊して、昨夜、8時間を要した夜行バスで、今朝、この町に着きました。
そのベトナム首都での二日間、行き先といえば、石灰岩地形の川を手漕ぎボートで行く観光【下写真】をしたくらいで、あとは、文字通りの行き当たりばったりの〈偶然のゲーム〉を楽しんでいます。便利なサービスに頼らぬ虚心坦懐と言えば聞こえはよいですが、ある面、ずぼらでもあり、また、年に似合わぬ無鉄砲なスタイルでもあります。
そうしたわけで、この旅を、並みの旅を卒業した旅、あるいは、どんな旅パターンにも入らない旅とでも言いましょうか。時に世界の若者たちに混じり込んで、供に60代と70代の半ばの二人ずれという年恰好も異例です。それに、旅経験という意味では、この組み合わせは一層、普通ではないかも知れません。またその旅装束といえば、擦り切れてそのまま旅先で捨てるつもりの普段着で、手荷物も各々、7キロ以内の機内持ち込み可能なリュックとバッグのみという、徹底した軽量化をはかっています。
片やの70代半ばは、昨年にはヒマラヤで海抜4千メートルを超えるトレッキングを終わらせ、コロナ以前では、インド北部の5千メートルの峠から世界3番目の高峰カンチェンジュンガを望んだりもしてきました。
他方の60代半ばは元ツアーガイドで、すでに世界の130か国を訪ね終え、死ぬまでには、世界のすべての国の完全制覇が目的である、旅レコード達成を目指す、いわば旅のプロです。
こうした、経験上でも、年期上でも、まして旅への思い入れでも半端でない二人であって、しかも好みや目的ではほとんど水と油のような両者が一緒に旅をするのですから、それはもう定型的パターンにはとても当てはまりそうもなく、ギクシャクの伴う旅でもあります。だからこそその旅を、実り多く、後味の悪いものにしないために、なかなか、両者の度量も試されています。
今回は、そうした旅の目的地がベトナムで、私には初訪問です。
そこには、こうした水と油による選択という行き掛かり上、ある種の歩み寄りがあって、山の志向でも数の増加でもない、一種の最大公約数が選ばれたといった経緯があります。
そのように、けっこう錯綜した今回の旅には、これまでの20年を越えるカップル関係をベースに、暗黙と意識されている、互いをそうした型外れな旅との非日常にさらしてみて、何らかの自他ともな新発見に期待するところがあります。いわば、年期のいったカップル関係の少々踏み込んだ応用課題とでも言えます。
その課題が何かを一言に、今日のLGBTQ+問題にからめて煮詰めれば、片やの〈男の沽券〉という重力からの脱出であり、他方は――推量ですが――、〈自立〉を維持するに必要な、時に重たい鎧の脱皮ということとなりましょうか。