「おひとりさま」と「おふたりさま」

話の居酒屋

第十六話

「あなたって、いわゆる『おひとりさま』ですよね。」

「ええ、死に分かれて、もう、だいぶになりますね。」

「僕って、そういう意味では『おふたりさま』ですね。二人に法的婚姻関係はないですが。」

「まあ、女にとって、相手が逝ってくれることで、ようやくしがらみから独立できるって面はあります。」

「なんて言うのかなあ、成り行き上なんですが、結局、僕が主“夫”をやってる方が、うまく回るんですよ、生活が。」

「あなたぐらいの年で、それができるなんて、それは進んでる。」

「といっても、僕らは子なし同士ですから、家事といっても大したことはないわけですよ、要は食い物を誰が作るかってのが主。味にまつわるセンスって、女だから優れてるなんてないでしょう。そこで彼女の方が稼ぎ向きだったんですよ。」

「そう、プロのシェフって、ほとんど男の世界。」

「女のシェフも増えてきてる。日本は遅れてるけど、女性の稼ぎが上がってくると、もう、家計の主って、効率の問題になってきますよね。どっちが稼ごうが、高い方がいいに決まってる。そこで、割のいいほうが主になる。」

「それは当然。それに、女って、現実的だから、出産さえすましちゃえば、後はけっこうビジネスに向いている。」

「それに、家で料理するって、けっこう趣味的というか、物好き的なことで、男にだって、それが得意なのもいる。僕ってそれだったんですよ。結構、職人的なんです。」

「そこで話は跳ぶんですが、これまでの社会の男女の役割分担なんで、逆の方がよかったんじゃないか、そう思いません?」

「まあ、確かに、僕の場合はそんな具合の家事向きですが、やっぱり、一般的には、外でガンガンやるしかないってのが、男の役割となっている。」

「確かに、古いタイプのリーダーってのは男が多い。でも、軍隊じゃあるまいし、社会で、ビジネスを転がしてゆくって、そういう男くさいリーダーだけで出来ることじゃないですよ。」

「だけど、男女の役割を、これまでとはまったく逆にしてしまえば、それはそれで問題はあるでしょうね。ひっくり返った問題が。」

「でも、女が政治をやるとすれば、世界はもっと平和になっちゃうと思いません? だいたい、国を戦争にもってゆくのは男たち。」

「まあ、こういう男だから女だからとかという話は、それはそれで性別決定論だよね。だから、女性主導にするってのは、これまでが男社会だったことの裏っ返し。それより、やっぱり本筋は、男だろうが女だろうが、人それぞれの得意、不得意がどう生かせるのかってとこじゃないかな。」

「それに、LGBTQなんて、もっと微妙な違いのはなしもあるしね。」

「垣根をとっ払い、あらゆる分野に、だれもが進出ってのが理想ですね。」

 

 

 

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