今日の居酒屋は、いつものにぎやかな店ではない。見たところ、一人で黙々とやっている風の居酒屋。
「なあZG、あんたって、誰にだって取り入っちゃって、驚きの才能だね。」
「まぁ、それほどでもないが、私の習性がそうさせてるだけ。」
「だけなんて言うなよ。そうそうたる国の王様だってそのうちじゃないか。それにいまや、男なら死ぬまでに、あんたに居座られないで逃げ切れるやつなんて、いないんじゃない?」
「それが私に与えられた使命だから、しょうがない。」
「使命? いったいどんな使命なんだ。」
「『てんばつ』って言葉あるだろう。あれみたいなもの。」
「テンバツ?」
「そう、天罰。」
「おいおい、そんな大それたことやってるの、あんた。本気で?」
「大それてなんかいないさ。ただ、後始末みたいなこと、させてるだけ。」
「これもだけか。でも、後始末なんていったい何の? なんだか聞こえが悪いじゃないか。」
「人間だれも、好きなことをやるのはいい。そしてそれで、自分の限界を越えてゆくのは立派なこと。ただし、それをやるなら、相手はおのれだけにしておけってこと。」
「またまただけか。でもこのだけって、誰か他人を相手にするなってことか?」
「そういうこと。自分だけに終わらせず、相手なしで済まないことまでやってしまうから、こういうことになっちゃう。」
「そういう際限破りが男たちみんなだっていうこと? だから男なら誰でも、後始末させられるってわけ?」
「男なら一人残らずってことではないがね。だが世の中、確かに、一対でなきゃことが進まないことは山ほどある。そして、そういう相手あるがゆえに、それだけのリスペクトも配慮も当然となってくる。だけど、考えてみてほしい。この男ならではの相手って、それほど尊重も配慮もされてる相手だろうか。」
「そう言うなよ。だって、誰だって、どこだって、男と生まれたからには、そんなことは当然どころか、誇りにまでされてるじゃないか。」
「だから、その当然や沽券とされてしまうことには、カウンターパワーをもって、それを示さにゃならん。そこでそういう使命が求められてきている。」
「弱者の味方ってことなんだ。」
「弱者、強者というより、人たるもののバランスということかな。」
「あんたって、ウイルス?」
「いや、もっとだ。高度生命情報体。」
「なんだそれ。分かったようで分からん。でも、我々の一代で終わるって話じゃないのは確かだね。長がぁーい時間がかかる。」
「そう、そういう当然や沽券が当然になってくるまでにも、時間がかかってそうなった。」
「フ―、やれやれだな。溜息がでてしまう。」